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宇宙科学の最前線

アナログ集積回路のすすめ

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 大阪大学でも,X線天文用のCCD読み出しシステムを開発しています。CCDは,信号対雑音比において優れた性能を発揮するものの,読み出し時間において相対的に劣るという問題があります。そこで,読み出し時間を短縮するために,CCDチップに複数の読み出しポートを設け,これを専用のASICで読み出すことが試みられています。このようなCCD読み出しチップは,ポートごとに,積分回路とホールド回路からなる雑音フィルター回路と,12ビットのグレイコードカウンタを用いたウィルキンソン型のA/D変換回路を必要とします。また,二重相関サンプリングを用いることにより,10電子以下の雑音レベルを達成することを目指しています。図2には,この集積回路を用いて撮像されたX線画像を示しました。大阪大学では,Open-IPを拡張して,ΔΣコンバータを用いた信号処理系の試作にも着手しています。

 Open-IPの枠組みを試行する中で,すでにIP開発のスパイラルは,急速な上昇を始めています。本機構外においても放射線検出器の分野で,B-ファクトリーにおける,粒子識別を目的としたイメージング型エアロジェル検出器の読み出し回路や,いわゆるTOP(Time-of-propagation)検出器用のTAC(Time-to-amplitude converter)回路,また,ILC(International Linear Collider)における衝突点モニターを目的とした3D検出器用ピクセル型増幅器アレーなどの開発を通じて,IPの開発へと展開しています。


図2
図2 X線検出器用のCCDからの信号を試作チップで読み出した画像
M2.6のナットによってX線が遮蔽されている。


高信頼化に向けて

 宇宙機における集積回路は,高機能化を目指すのみでは,その実用化を図ることはできません。宇宙環境においては,集積回路は過酷な宇宙放射線や低温,高温,温度変動にさらされるからです。また,長期間のミッションにわたってその信頼性を維持することも重要です。そこで,SOI※3技術を用いてアナログ集積回路を構築することの可能性の追求に着手しました。ディジタル回路への応用については,すでに本機構,本研究本部において先行して開発が続けられています。

 SOI技術は,1960年ころから米国においてもっぱら軍事・宇宙への応用を目的として開発が進められてきました。トランジスタ同士が二酸化シリコンによって完全分離され,またサブストレートとも分離されているため,ラッチアップのおそれがなく,さらにシングルイベント効果が著しく低減されるからです。ラッチアップは,バルクCMOSにおいて寄生的に構成されているPNPN構造によってこれがサイリスタとして作用し,電源を切らない限り過剰電流が流れ続ける現象です。これは,宇宙機において致命的となりかねません。


※3 SOI
Silicon on insulator。絶縁膜上に単結晶シリコンが形成されている集積回路製造用のウェハーをいう。高速のディジタル回路や高周波アナログ回路への適用が進んでいる。



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