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宇宙科学の最前線

小型科学衛星「れいめい」とオーロラ観測


〜立教大学理学部助教授 平原 聖文〜
〜東北大学大学院理学系研究科助手 坂野井 健〜
〜宇宙科学研究本部宇宙プラズマ研究系助手 浅村 和史〜
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 小型科学衛星INDEXは,2005年8月24日3時10分(日本時間)にカザフスタン共和国にあるロシア管轄のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ,「れいめい」と命名されました。バイコヌール宇宙基地は,アラル海から東に200kmほど離れた広大な土漠の原野に作られた人工都市で,世界最初の人工衛星「スプートニク1号」や人類最初の宇宙飛行士ユーリ・A・ガガーリンが飛び立った軍事基地として知られています。最近では,欧米の人工衛星の商業打上げも盛んです。

 「れいめい」を打ち上げたロケットは,冷戦時代,旧ソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)として新聞紙上をにぎわせたSS−18を商用目的に平和転用したドニエプルロケットです。専用の地下サイロから予定通りに打ち上げられ,完璧ともいえる飛行・姿勢制御・分離の後,2機の衛星が軌道に投入されました。

 今回のドニエプルロケットには,打上げ後に「きらり」と命名されたOICETS衛星が主衛星として搭載されており,「れいめい」はピギーバック衛星でした。最近は,大学の研究室でもピギーバック方式で打ち上げられる小型・超小型衛星の開発が盛んに行われ,話題になっています。宇宙科学研究本部でも,小型衛星を用いて,より高い頻度で,より迅速に,低予算でも学術的意義の高い先進的な宇宙探査・観測・技術試験を実施していくべきである,という議論があります。「れいめい」計画に携わってきた我々も,小型衛星計画の有用性・将来性を強く感じています。

 「れいめい」の理学班では,理学観測の対象を特化することにより,小型・軽量・少数の搭載用観測器でも高い科学意義を達成できる本格的な小型科学探査計画を目指しました。1999年に理学観測計画を提案し,搭載用観測機器の研究・開発を推進してきました。さまざまな外的状況の変化により予想外の長さとなった6年間の取り組みが,打上げ成功と衛星・搭載機器の順調な運用によってようやく報われた思いがします。打上げ前は1ヶ月とされていた「れいめい」の軌道上寿命ですが,打上げから4ヶ月経た現在でも,太陽電池パネルやバッテリー,姿勢制御・監視装置,理学観測器などすべての搭載機器が健全な状態です。この様子から,さらに1年以上は連続観測が可能であると判断しています。このような小型衛星の打上げ・運用は,宇宙研では「れいめい」が初めてで,今後も継続的な衛星観測とデータ解析,成果発表に精力的に取り組んでいきたいと考えています。



「れいめい」の科学観測

 「れいめい」による理学観測目的として,我々は地球極域で起こるオーロラ現象の微細構造の解明に結び付く観測計画を提案しました。これまで,地上だけでなく人工衛星からもオーロラ発光やそれらにかかわる宇宙空間プラズマの観測が行われてきました。しかし,これら過去の観測では,オーロラの微細な構造や活発な時間変動・ダイナミクスには迫れませんでした。ここに,「れいめい」によるオーロラ微細構造観測の意義があります。


図1
図1 打上げ前で太陽電池パドルが折り畳まれている状態の「れいめい」衛星と理学観測機器。オーロラカメラの外観は三つの観測波長別のレンズと干渉フィルターが特徴的。電子用とイオン用の2台のオーロラ粒子センサーが,展開前の太陽電池パドルと衛星本体に挟まれて見える。合計5枚のプラズマ電流モニターの電極も確認できる。


 「れいめい」搭載の科学観測機器(図1)であるオーロラカメラとオーロラ粒子(電子・イオン)センサー,そしてプラズマ電流モニターは,空間分解能を高める,時間分解能を高める,という設計思想により開発されています。オーロラカメラでは,約2kmの空間分解能と120ms(ミリ秒)の時間分解能で,3波長に分光されたオーロラ発光の2次元画像を撮影できます。オーロラ粒子センサーは,宇宙空間から磁力線に沿って降下しオーロラを光らせる電子(オーロラ電子)や,オーロラ現象により加速され地球から宇宙空間に流れ出しているイオンを,20msの時間分解能で計測可能です。プラズマ電流モニターは,オーロラ発生時の宇宙空間プラズマの環境(密度・温度)を200Hzのサンプリングで測定します。


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