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宇宙科学の最前線

小型科学衛星「れいめい」とオーロラ観測


〜立教大学理学部助教授 平原 聖文〜
〜東北大学大学院理学系研究科助手 坂野井 健〜
〜宇宙科学研究本部宇宙プラズマ研究系助手 浅村 和史〜
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図2
図2 「れいめい」によるオーロラ発光とオーロラ粒子の同時観測の模式図。高度約630kmの軌道上から,オーロラ発光の2次元分布をオーロラカメラにより高空間・時間分解能で分光撮影すると同時に,磁力線に沿って降下しオーロラを光らせる磁気圏起源の電子やオーロラ活動に伴って宇宙空間に流出する電離圏起源のイオンのエネルギーと運動方向,流量をオーロラ粒子センサーで計測する。


 個々の理学観測器の最適化に加え,「れいめい」の姿勢制御能力を活用することで,オーロラ発光とそれに関係している宇宙プラズマ現象を高い空間・時間分解能で同時に観測することが可能になります(図2)。オーロラ画像・粒子・環境に関するデータを高空間分解能・高時間分解能で同時に取得できるのは「れいめい」が初めてであり,国内外の将来計画としてもいまだ提案されていません。

 「れいめい」は高度610〜670kmを飛翔し,地方時にして00時50分〜12時50分の子午面を軌道面に持つ太陽同期軌道上にありますから,オーロラ現象が頻繁に起きる真夜中の南北極域を1日に最大30回繰り返し観測できます。また,3軸姿勢制御系を利用して,地上から同時・多点観測されているオーロラ発光領域にオーロラカメラの視野を向けると,衛星・地上からさまざまな角度で撮影することになり,オーロラの立体構造の解明に役立つデータが得られます。



オーロラの機構と観測

 オーロラ電子に代表される宇宙空間プラズマ粒子の貯蔵庫は,地球磁気圏のプラズマシートと呼ばれる領域です。ここでは,プラズマの密度は比較的低いものの,その温度は数千万度以上です。プラズマシートから地球につながる磁力線の周りを旋回(らせん状)運動しながら電子が地球大気へと突入し,高度100〜500kmの電離圏に存在する高密度の地球大気と衝突することで光るのが,オーロラです。

 オーロラ電子が電離圏へ突入する際,地表に近くなるほど磁力線の密集度が高くなり,磁場強度が上がります。この場合,電子は地球磁場により跳ね返され,プラズマシートへと戻ってしまい,オーロラは光りません。オーロラが光る高度まで電子が深く突入するためには,磁力線に沿った下向き方向(地表方向)に加速しなければなりません。この機構として最有力なのが磁力線と平行方向に存在する自然の電位差(沿磁力線方向の電位差)です。オーロラ発光領域の上空には数千ボルトの大きさの電位差が数万kmの高度差にわたって広く存在し,活発に変動していると考えられています。
 また電離圏では,オーロラ発光以外にもオーロラ電子降下によるエネルギー流入で大気加熱やプラズマ波動励起が起こり,電離圏イオンの上昇流を引き起こすことがあります。イオンの上昇速度が大きくなると地球重力を振り切って,宇宙空間へと流出していきます。

 高度約100km以上の領域の地球大気は,分子や原子ごとに異なる高度分布を示します。例えば,下部電離圏には,主に窒素分子と酸素原子が存在します。沿磁力線方向の電位差により加速されたエネルギーの高い電子は,下部電離圏まで突入できるため,酸素原子や窒素分子と衝突し,これを励起させたり電離させたりします。この励起状態からより低い状態へ遷移するときに発光するのがオーロラですが,励起に必要なエネルギーや励起してから発光するまでの時間は,発光の種類ごとに異なります。それゆえ,オーロラ発光を分光し,その源を特定して観測すると,オーロラ電子の特徴や発光機構をリモートセンシングすることになります。また,電離圏に突入する加速された電子や電離圏からのイオン上昇流のエネルギーや運動方向,流量を高精度で観測することなしには,オーロラ現象解明につながる新しい知見は得られません。



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