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宇宙科学の最前線

「はるか」が生み出した次期スペースVLBIミッション「VSOP-2」

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 22,43GHz帯については,スターリングサイクル冷凍機により30Kまで冷却して高感度を目指します。赤外線領域の「あかり」も,X線領域の「すざく」も,電波領域のASTRO-Gも,大事な受信部は冷却する時代に入りました。

 スペースVLBIでは観測帯の波束をサンプリングして地上のトラッキング局に高速伝送します。このとき広帯域であるほど,感度が上がります。VSOP-2は「はるか」の8倍の1Gbpsのデータ伝送を行い,これだけで3倍近い感度向上となります。

 周期1分以内で離角2〜3度以内の2天体をスイッチング観測するために,4台のリアクションホイール(RW)に加えて,高トルク能力のあるコントロールモーメントジャイロ(CMG)2台を追加します。また,高精度軌道決定(位置精度5cm以内)が必要で,GPS利用などの方式を積極的に検討しています。

 MUSES-B時代と同じ,やはり多くの積極課題があります。多くの関係者の参加を願っています。



提案からプロジェクトスタートへ向けて

 宇宙研の第25号科学衛星の公募に対して,2005年10月にVSOP-2の提案を行いました。

 宇宙理学委員会には硬X線天文衛星NeXTも提案され,同委員会は2006年2月1日に,先行するミッションとしてVSOP-2を推す案を選定しました。一方,宇宙工学委員会はソーラーセイルを選定,宇宙研は本部内の二つの意思決定会議で3月1日にVSOP-2を選定,さらに運営協議会,評議会で4月中に承認,5月に入ってJAXAとして承認,7月に宇宙開発委員会の事前評価を受けて認められました。

 ボトムアップでのステップを上がりながら,多くの指摘を頂きました。2007年度からの正式プロジェクトスタートを前提に,JAXAとして概算要求が行われました。2011年度に打上げ,打上げ後5年以上の運用を想定しています。



スペースVLBIの運用と国際協力

 全体の観測と運用の流れは,VSOPのときと同様です。衛星は,鹿児島コマンド局に従って動作します。衛星はトラッキング局から送信される周波数を基準にして動作し,観測データをトラッキング局に送信して記録します。衛星とトラッキング局が一体となって,一つの宇宙電波望遠鏡として動作するのです。そして,衛星と地上の電波望遠鏡群で得られた観測データが相関局に送られ,相関処理が行われ,そして画像処理によって電波画像になるのです。

 「はるか」では5局のトラッキング局ネットワークを形成しましたが,VSOP-2でもこれは必要です。VSOP-2計画の相関器としては,国立天文台と韓国が共同で製作および運用を行うことになっています。

 VSOPでは,大規模で緊密な国際協力を組み,連日の観測を組織し運用を成功させました。VSOP-2では,この経験と国際理解を活かして進めます。VSOPに参加した中国に加え,韓国では2007年までに3局の専用VLBI網(KVN)が建設されます。VLBA (米国),EVN(欧州,中国),AT(豪州)などの国際VLBI望遠鏡群が参加します。



VSOP-2を生み出した「はるか」

 国内のVLBI関係研究者は,VSOP開発時と比較すると,VSOP,VERAなどのプロジェクトの遂行を通じて確実に増えています。VLBIコミュニティとしては,VSOP,VERA,VSOP-2という流れを共通認識にしています。国立天文台のVERA 4局については,観測周波数がVSOP-2と一致している上に,位相補償観測に特色を置いた電波望遠鏡であるために,共同観測により特色のある成果が期待できます。

 VSOP/「はるか」を協力して行った宇宙研と国立天文台は,緊密な連携体制を作ろうとしています。2004年4月から,VSOP-2を目標とした「スペースVLBI推進室」が国立天文台に設置されました。VSOP-2計画は国立天文台の各種委員会においてレビューと審議を受け,宇宙科学研究本部との共同プロジェクトとしての立場が認知されました。

 VSOP-2を生み出した「はるか」は,2005年11月に運用を終了しました。新しい観測法「スペースVLBI」を確立した「はるか」。その本格的科学ミッションを何とか成立させようと,チームは頑張ってきました。かつて日本の空を翔んでいたという「朱鷺」のように絶滅させてはいけないと強く思いました。

 新しい分野を興すには,さまざまな苦労が伴います。何としても成功させたいと思っています。

(ひらばやし・ひさし)



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