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宇宙科学の最前線

「はるか」が生み出した次期スペースVLBIミッション「VSOP-2」

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VSOP-2の性能強化

 VSOP-2では,望遠鏡としてのVSOPからの大幅な進化を狙い,三つの努力目標を設定しました。

 ● 10倍の高周波化:VSOPで主に成果の出た5GHzより観測周波数の高い43GHzまでの観測によって解像度を向上させる。また,高周波化によりプラズマ領域内を見通しよく観測することを狙う。
 ● 10倍の解像度の向上:高周波化および遠地点高度の増加の効果で達成できる解像度は,43GHzで0.040ミリ秒角で,VSOPの0.4ミリ秒角(5GHz)の約10倍である。
 ● 10倍の高感度化:冷却受信機(22,43GHz帯)による低雑音化,伝送レートを1Gbpsに高めることやアンテナゲインの増加により,連続波観測で感度を約10倍に向上させる。

 さらに,以下の二つの大事な性能を加えます。

 複雑な観測をするVLBIでは観測の「位相」というものに誤差や不安定性がのり,高い感度や精度が達成しにくくなります。そこで,観測したい天体と方向の近い参照天体との観測を1分間ぐらいの周期で切り替える「位相補償観測」モードを取り入れようとしています。これにより,さらなる高感度化とアストロメトリ観測が可能になります。

 また,偏波観測を積極的に行い,磁場の方向やファラデー回転などの情報を得ます。これはプラズマ領域での磁場の役割,磁場と放射が密接に関連しているので,この情報はとても大切です。



ASTRO-G衛星と技術開発

 電波天文用アンテナをどう設計するかが大きな問題でした。結局,「はるか」のアンテナとは違う,モジュール構造のオフセットパラボラの大型展開アンテナ(9mφ, 0.4mm rms)ということに落ち着きました。展開アンテナの反対側に一翼のソーラーパドルを持ち,全体は3軸姿勢制御をします。衛星重量は約910kg,衛星発生電力は約1.8kWです(図2)。

図2
図2 ASTRO-G衛星のペーパークラフト(朝木義晴氏が用意して,今年の一般公開日に皆さんに配布)


 観測軌道としては,遠地点高度2万5000km,近地点高度1000km,軌道傾斜角31°,軌道周期7.5時間の楕円軌道を目標としています。

 大型展開アンテナの展開構造は,ETS-VIIIで開発されているLDR(Large-scale Deployable Reflector)構造を採用することにしました。7個のアンテナモジュールで構成します。モジュール単体の鏡面精度を上げるために,新規開発の放射リブ方式を採りますが,これはコンセプトが雨傘そのものです。また,主鏡に3軸,副鏡に2軸調整機構を持ち,軌道上でアンテナ利得が最大となるよう調整できることとしています。

 2000年度から戦略的開発経費という衛星選定前の開発費が認められるようになりました。展開アンテナについては集中的に6年にわたるモジュール試作などの検討を進め,実現の見通しを得ています(図3)。


図3-A
図3 試作された大型展開アンテナのモジュール



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