宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > オーロラの起源粒子を運ぶ宇宙空間ガスの渦

宇宙科学の最前線

オーロラの起源粒子を運ぶ宇宙空間ガスの渦

│2│


宇宙空間ガスの可視化

 私たちの学問分野の衛星に搭載される機器の多くは,探査機の飛んでいる「その場所」でのプラズマや電磁場を,直接観測しています。望遠鏡などによってリモートセンシングを行い,天体や宇宙空間ガスの2次元像を得る天文衛星とは対照的です。2次元像からは,どこに何があってどういう形をしているのか一目瞭然です。例えば9月に打ち上げられた「ひので」衛星の観測は,太陽磁場やコロナガスの構造や動きをまざまざと見せてくれます。それに対してその場観測は,精密計測が可能という特長がある一方で,データから有用な情報を抽出するのがかなり困難です。先述したように,渦のような2・3次元構造が「それだ」と分かるためには,CLUSTERのような編隊衛星を打上げなければならなかったわけです。

 こうした中,その場観測からも宇宙空間ガス構造に関する2次元情報を得ようと,新しいタイプのデータ解析手法が開発されつつあります。図2に,宇宙科学研究本部とNASAの共同プロジェクトであるGEOTAIL衛星の観測データから再現された,磁気圏境界層の2次元像を示します。ここでは衛星軌道周辺のプラズマ構造(流れ場,密度など)を,観測値(プラズマの密度,速度,温度と磁場)を初期条件として用いて作成しています。一見して,長さ約2万km,幅が数千kmの渦が並んでいて,GEOTAILはその内部や近傍を通過していたのだということが分かります。

 現状での2次元像再現法は,無衝突プラズマが流体として振る舞う場合に成り立つ理想電磁流体の理論に基づいています。また,再現できる構造は2次元で平衡状態にあるものに限定されています。これらの仮定は現実には成り立たないこともあるので,厳密な議論をするには編隊観測の助けも借りる必要があります。しかし図2のような流線マップからは,プラズマの流れる道筋などが分かってきます。手法の完成度が高まれば,太陽風がどのような経路をたどって磁気圏に侵入しているのか,といった疑問に答えられるようになると期待しています。



図2
図2 GEOTAIL衛星の観測から再現された渦の構造。黒線は流線,白い矢印は実際に観測されたプラズマ速度ベクトルを示す(X軸は衛星の軌道)。


│2│