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宇宙科学の最前線

基礎科学分野における宇宙環境利用科学の現状と今後の展望

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臨界点ダイナミックス

 臨界点では,液体と気体の区別がなくなり,圧縮率,熱膨張率,比熱などが発散するといった特徴があります。また,熱拡散が悪くなるといわれています。ところが,1985年に実施されたドイツのD-1ミッションにおいて,熱が異常に速く輸送されることが発見されました。その後,ヨーロッパを中心としてシャトルや小型ロケットなどを用いた実験が進められました。1990年には京都大学教授の小貫明らにより,この異常輸送のモデルが提唱されました。この現象は,1990年にフランス国立航空宇宙センター(CNES)のZappoliらによりピストン効果と命名されました。小貫らのモデルでは,わずかな温度変化であっても,急激な熱膨張により衝撃波のような疎密波が生じ,その疎密波が高速熱輸送を行うと説明されています。しかし,実際に疎密波が伝播する様子を直接的にとらえた実験はこれまでにありません。そのため本WGでは,疎密波伝播を実験的に測定することによるモデルの検証を目指しています。ところが地上では,臨界点近傍での密度揺動は密度勾配を生じさせ,その結果,一部の領域でしか臨界点近傍に到達できません。このため,微小重力が極めて有効に作用すると考えられます。

図3
図3 開発中の小型ロケット用ピストン効果実験装置

 本WGでは,現在小型ロケットを利用した実験を想定して,微小重力実験装置の開発を進めています。図3は開発中の実験装置です。図3には,実験用試料セル部のみを示しました。セル部には,最大3個の試料セルを搭載することが可能です。また,このセル部を三重の熱シールドで覆い,mKオーダーでの温度制御を可能にしています。この熱シールドは構体を兼ねており,耐振動性を向上させています。


今後の展望

 ISS以外では,落下塔と航空機だけが現在,我が国独自の微小重力実験手段です。さらに,ISS搭載装置開発費は極めて高額となってしまうため,新規開発は困難な情勢です。そのため,科学的意義の高い新規宇宙実験テーマがありながらも,我が国独自の実験機会がほとんど得られない状況が続いています。この状況を打開する方法の一つが国際協力であると考えています。

 微粒子プラズマについては,ヨーロッパが長年微粒子プラズマ研究に取り組んでいます。ドイツのマックスプランク地球圏外物理研究所(MPE)とロシアの高エネルギー密度研究所 (IHED)が中心となって,PKE Nefedovという装置をISSのロシアサービスモジュールに搭載し,すでに実験を完了させています。また,昨年12月には,PKE Nefedovの後継装置であるPK3 Plusが同じくロシアサービスモジュールに搭載され,2008年ごろまで実験が行われる予定です。このプロジェクトに日本も参加できるよう,MPE,IHED,欧州宇宙機関 (ESA),ドイツ航空宇宙センター(DLR)などとの協力を進めているところです。また,臨界点ダイナミックスについても,欧州のTEXUS小型ロケット利用を目指します。このため,ESA,CNESとの協力を進めたいと考えています。固体ヘリウムに関しても,重力によって変形するほど脆弱なので,微小重力が極めて有効に作用します。量子効果を伴う結晶成長の物理学として,今後有望な宇宙実験テーマです。 

(あだち・さとし)



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