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宇宙科学の最前線

基礎科学分野における宇宙環境利用科学の現状と今後の展望

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図1
図1 クーロン結晶形成実験の代表的実験結果

 次に,自発的な構造形成が可能であるかどうかを実験的に調べるために,実験装置の設計・製作を行いました。本装置を用いてプラズマを作り,その中に直径1μmの単分散粒子を投入することにより,図1に示すクーロン結晶を形成することに成功しました。光源には厚み1〜2mmの緑色レーザーシート光を用いました。シート光の厚みがこの程度であっても,観察装置の被写界深度が浅いこと,およびシート光から外れかけた粒子は輝度が小さくなることから,シート光内に粒子が存在するかは判別可能です。図1の赤破線で示したように,微粒子は鉛直方向には直線状に配列しています。ところが,黄破線で示したように,水平方向には非直線状に配列しています。一方向からの観察なので構造を断定できませんが,面心あるいは体心構造のように見えます。今後観察装置を改良し,構造を明らかにする計画です。また,得られたクーロン結晶は上方ほど上下の粒子間距離が小さくなっていて,かつ上下方向の粒子数は5〜6個程度です。これは,重力に逆らってクーロン結晶を保持するために,シース領域の電場を利用しているためです。微小重力環境を利用することにより,シースの影響を受けない等方的かつ大きなクーロン結晶を得ることができると期待されています。

図2a 図2b
(a)初期状態   (b)10フレーム後
図2c 図2d
(c)20フレーム後   (d)30フレーム後
図2 クーロン結晶における結晶成長のその場観察結果

 また,JAXAで得られたクーロン結晶では,上部の粒子よりも下部の粒子の方が活発に運動する傾向にあります。このため,下部の粒子が異なる格子点に移動する現象が観察されます。図2はその観察例です。(a)は初期状態です。(b)は(a)から10フレーム後(約0.33秒後)で,黒矢印の粒子がシート光面内に近づいてきます。このとき,図において,赤矢印の粒子は右側,黄矢印の粒子は左側へ移動していきます。20フレーム後(c)には,黒矢印の粒子は,赤矢印の粒子が初期状態に結合していた格子に接近し,赤矢印と黄矢印の粒子は元の格子に対して,それぞれ一つ右側および左側の格子に結合します。30フレーム後(d)には,黒矢印の粒子も格子と結合します。結合という表現を用いた理由は,粒子が移動後,ある格子点にとどまる場合には,まるでポテンシャル井戸に捕捉されるような挙動を粒子が示すためです。今後モデルと実験結果を組み合わせて,捕捉メカニズム解明を進めたいと考えています。また,このような挙動はこれまであまり報告されておらず,実在結晶における表面拡散などのモデルとして利用できる可能性があると考えています。


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