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宇宙科学の最前線

広大な宇宙に広がる小さな固体粒子を究める

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赤外線衛星観測で分かってきたダストの新しい仲間たち

 固体の格子振動は,赤外線域に集中している。最近の衛星観測では,これまで知られていなかったダストバンドを多数発見し,新しいダストの仲間たちの存在を明らかにした。宇宙空間のダストは,これまでガラスのように結晶化していない石ころが主流だと考えられていたが,ISOによる年老いた星や若い星のスペクトル観測により,結晶質の石ころも存在することが分かってきた。結晶化が進化のどの段階でどのような過程を経て進んでいくのかは,太陽系の起源とも結び付く,今最もホットな話題の一つである。

図2
図2 竜骨座大質量星生成領域(可視域の写真)と赤外線スペクトル。実線は丸で示された位置のISO衛星によるスペクトル。破線は四角で示された位置のSpitzer宇宙望遠鏡のスペクトル。22〜24ミクロンにかけての幅広いバンド構造が見られる。


 結晶質の石ころのバンドは,星の周りには見られるが,普通の宇宙空間からの熱放射には見られないので,いわゆるダストとしてはまだマイナーな存在である。PAHのバンドのように,宇宙空間からの熱放射の成分の中にも新しいバンドが検出されている。例えば,図2に示すのは,大きな質量の星が生まれているところに限ってISOが見つけた,22から24ミクロンにかけての幅広い放射バンドである(実線)。最近のSpitzer宇宙望遠鏡の観測でこのバンドの存在がはっきりと確認されたが(図2破線),比較的限られた電離領域にのみ存在することも分かってきた。もし大質量星の誕生と関連するものだとすると,例えば超新星爆発に伴ってつくられたり,変質したダストである可能性もある。Spitzer望遠鏡の観測では,比較的最近に星がいっぱいできたと思われる銀河にも,似たようなバンドを検出している。このバンドが,星ができる現象と深い結び付きがあることが確認されれば,生まれたての銀河を探す際にも,非常に有効な手掛かりになると考えられる。また,石ころや炭のダストはどこでできているのかよく分かっていないのに対し,出自がはっきりした初めてのダストでもある。しかし一方,出自は分かっても正体がどういうものかは,はっきりしていない。そもそも一つの幅広いバンドしか特徴付けるものがないため,組成の特定は,かなり難しい。酸化鉄とか,出来たての石ころなど,いろいろな説がいわれているが,これまでのところ残念ながら決定的な報告は得られていない。今後,より多くの天体で探索することで,その正体がはっきりすることを期待している。

図3
図3 ISO衛星による星生成領域シャープレス171の遠赤外線スペクトル。差し込みは40〜80ミクロンの拡大図と,透輝石のスペクトルとの比較を示す。100ミクロン付近にも,炭素のタマネギや炭酸塩ダストが候補である幅広いバンド構造が見られる。


 図3には,これもISOで見つかった,もっと怪しげなダストのバンドを示す。一つは65ミクロン付近に,これまた星生成領域で見られた放射バンドである。透輝石(Diopside)と呼ばれるカルシウムを含む結晶質の石が,似たようなバンドを持つことが分かっている(図3差し込み図)。もしこの推理が正しければ,普通の宇宙空間に見つかった初めての結晶石である。

 さらに同じスペクトルを詳しく見ていくと,100ミクロン付近にも,なにやら幅広い弱々しいバンドがあるように見えてくる。似たようなバンドが見つかった星では炭酸塩ダストが候補として挙げられているが,星生成領域で見られるバンドは,もっと波長の長い側に尾を引いているようにも見える。我々は,石墨のシートが丸くくるくるっとなった,カーボンオニオン(炭素のタマネギ)の微粒子からの放射ではないかという説を立ててみた。もちろん,弱々しい幅広のバンド一つだけでは,決定的な決め手とはなり得ない。しかし,炭素のタマネギは紫外線の吸収バンドの説明にも提唱されており,そんなに場違いな思い付きでもないかもしれない。



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