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宇宙科学の最前線

次世代X帯デジタルトランスポンダーの開発 戸田 知朗

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“さなぎ”を作る計画,そして蝶へ

新型トランスポンダーを作る計画は、2000年度に始まりました。一昨年度までの2年間で、ここまでに述べたような新機能を網羅する実証実験を完了しました。そして、その後の3年半で搭載性を保証するプロトタイプの製作を行う予定です。このプロトタイプは、実証試験に供された試作機をベースに開発されます。本稿が皆さんの目に留まるころには,搭載に必要な資格を満たす使用部品の選定、他搭載機器とのインターフェースの確定、ディジタル信号処理回路の搭載仕様品への適応などを終えて、具体的な惑星探査プロジェクトを挙げて目標を絞る段階にあるでしょう。ディジタル信号処理を含むベースバンド部のプロトタイプの開発はすでに完了して、これからは高周波部、周波数合成部、電源部の開発を行う予定だからです。機能評価用試作機との違いは、搭載可能部品への移行と外部機器とのインターフェース仕様を見直したことで、試作機の4段から5段構成に変わることが決まっています。その他の違いは、表1にまとめた「はやぶさ」の搭載品,試作機、これからのプロトタイプモデルの比較を参考にしてください。開発は順調です。

私たちのトランスポンダーは、いつお披露目を飾るのでしょうか? 金星へ?水星かもしれません。いずれにしても、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にとって最初の深宇宙探査機になることを希望しています。今のところ、地上で理解する探査機の言葉は、穏やかに唱える念仏のように“聞こえ”ます。でも、年々進化していくIT技術のその先には、はるか彼方の探査機との間に禅問答が生まれるやもしれません。宇宙科学は、人間の世界観そのものを揺さぶる強い力を持っています。探査機の伝える言葉がその世界観に違いないなら、深宇宙通信は深淵そのものではありませんか。

表1 X帯トランスポンダー比較表
  プロトタイプモデル はやぶさ用X帯トランスポンダー 機能評価用試作機
送受信機 受信機(推定) 送信機 送受信機
形状(mm) 150 ×150×120 190 ×160×103 68 ×143×90 150 ×150×94.5
重量(g) 2100 2250 1510 3400
密度(g/cm3) 0.78 0.72 0.70 1.60
消費電力(W) 18.2 17 9.6〜11 19.8
機能 変調度可変
信号再生方式測距機能
安定化電源
変調度可変
安定化電源
変調度可変
信号再生方式測距機能
非安定化電源
ハウジング
材質
マグネシウム
(比重:1.74)
マグネシウム
(比重:1.74)
アルミニウム
(比重:2.69)
※開発中のものは送受信部一体の構成となっている。
はやぶさ用X帯トランスポンダーの受信機は冗長構成を兼ねて2台で1台の機能をカバーするようになっている。

(とだ・ともあき)
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