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宇宙科学の最前線

宇宙科学の最前線 磁気圏ダイナミクスの新しい見方

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そして,次世代の観測へ

これらを踏まえて,次世代の観測計画とはどのようなものであるべきでしょうか。まず,鍵となる領域をきちんと観測しながら,同時に全体を把握する必要があります。また,鍵領域の観測では電子スケールまで迫る必要があります。これらの要請を満たすものとしてわれわれが考えているのが,NASAのMagCon計画と同時にSCOPE計画を実行する,ということです(図3)。

図3 MagCon計画(左)とSCOPE計画(右)
図3 MagCon計画(左)とSCOPE計画(右)

MagCon計画とは,磁気圏内に数十個の小型衛星をまき散らし,それぞれは簡単な観測しか行わないが,それでも全体のMHD的様相は把握しようというものです。ISTPにおいて試みられたことが,より組織的に行われます。衛星間距離を地球半径の2〜3倍にとり,地心距離10地球半径から30地球半径までの磁気圏を稠密に覆うので,磁気圏物理で焦点と領域全体で何が起きているかを把握するという意味では,よく考えられた計画です。

しかし,「スケール間結合」という問題意識にのっとれば,物事を引き起こす鍵となる領域,例えば磁気リコネクション領域で電子スケールまで分解して,何が起きるかだけでなくてそれを起こす仕組みは何かという問題も同時に観測して,実証的に理解したいわけです。そこでSCOPEではMagConが全体を把握する中,5衛星編隊でイオンスケール程度の空間構造を把握しながら,その中心では高時間分解能プラズマ粒子計測とプラズマ波動観測を行い,電子スケールダイナミクスまで把握する計画です。

MagCon計画とSCOPE計画の共同観測は約10年先と考えています。それまでに開発すべきことは多々あります。日本で初めての編隊飛行だということに伴う事柄は言うまでもありませんが,これまで立ちふさがっていた困難も突破して「鍵領域の完全観測」を目指すので,観測機器の設計や基礎開発だけでなく,それを理想的な状態で搭載するための衛星構造に関する議論も始めています。10年はずいぶん先のようにも思えますが,現在進行形のプロジェクトのデータ解析や大規模数値シミュレーションといった,一見プロジェクトに無関係なことでも,「スケール間結合」という視点を意識して進めることで次世代計画を充実させていくことになる,つまり,誰もが結果的にSCOPE計画と関連を持たずにはいられない10年だと考えます。ものすごい高時間分解能(10msec)で観測して初めて真の理解が可能となる,というのはずいぶんな回り道のように思われるかもしれませんが,宇宙プラズマという常識の通用しない世界を相手にしている以上,「急がば回れ」こそが正しい戦略でしょう。

(藤本 正輝)

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