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No.228 |
<研究紹介> ISASニュース 2000.3 No.228 |
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地球磁気圏の生成と磁気リコネクション前 澤 洌1.はじめに太陽の100万度のコロナから吹き出す太陽風は,中心距離の二乗に反比例してその密度を減少させながら,惑星間をふきぬけていく。超音速で流れるこのプラズマは,金星,地球,火星などの地球近くの惑星のあたりでは,大体その惑星の高度数百キロメートルの大気に相当する圧力(動圧)を持っている。したがって,太陽風が直接これらの惑星の上層大気にぶつかれば,そこに起こる相互作用で,大気の組成変化や,上層大気の惑星からの離脱を招く可能性がある。実際,固有磁場のほとんどない金星と火星はこのような状態になっている可能性が強く,現在火星に向かって飛行中の「のぞみ」も,このような状況を詳しく調べようとしている。地球はこれら3つの惑星の中で唯一大きな磁場を持っているので,太陽風との相互作用は,金星や火星とは全く別の側面をもっている。地球の周囲に広がる磁場は,地球から約7万キロメートル(地球半径の10倍)離れた点で太陽風をせきとめて脇にそらせてしまうほどの影響力をもっ。このように,地球磁場は太陽風の流れを周囲にそらせる盾となるが,流れの入ってこないはずの内側の領域(磁気圏)にも様々なプラズマ擾乱現象がおこり,盾が完全でないことを示している。 盾(シールド)が完全でないことは,磁気圏が反太陽方向に長く尾をのばしていることからもわかる。地球の磁場が太陽風に長く引きずられて伸びていることは,太陽風のもつ大きな運動量とエネルギーが完全に遮断されず,磁気圏に浸透してきていることを示している。
2.尾部のもつ意味 磁場凍結の破れ地球の磁気圏の長い尾部は,太陽風と地球磁場の相互作用の象徴であるが,プラズマ物理学の観点からいうと,磁場凍結(Frozen-in)の原理の破れという重要な理論的興味を引く対象である。太陽風のような粒子間衝突の少ないプラズマは理想的なMHD(磁気流体)方程式をみたし,磁場凍結の原理が成り立つことが期待される。この原理を一口でいうのはむずかしいが,ちょうど超伝導現象でみられるように,プラズマの各部分を貫く磁力線量がそれぞれの部分に固定されてしまうために,プラズマと磁力線は一緒に動かざるを得なくなる。したがって,太陽風は,自分のもつ磁場(太陽風磁場という)の磁力線から離れることができず,地球の磁場からは完全に遮断される。この場合,磁気圏は,周囲の太陽風の圧力を受け,図1aのようにまるく閉じた領域になるはずである(非対称なのは,太陽風のぶつかってくる左側の方が圧縮力が高いからである)。それに対し,実際の磁気圏は,同図bのように,地球の南北の磁極付近から出た磁力線が後方(右方)に非常に長くのびて尾部を作っている。尾部ができる理由は,なんらかの理由で磁場凍結が破れて,磁気圏の外側の磁力線が太陽風中にしみだし,太陽風がそのしみだした磁力線を後方に運んでいると解釈されてきた(図1bの縦長の楕円は,尾部の断面の形がわかるようにほんの少し斜め後ろ上方から見たところで,点線は,後で議論する磁気中性面を示す)。
図1 閉じた磁気圏(a)と開いた磁気圏(b)
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磁気圏のように大きな系で磁場凍結の原理を破るのはなかなかむずかしい。理論的に考えられるほとんど唯一の手段が磁気リコネクションと呼ばれる物理過程である。例えば,プラズマの中に図2aのような反平行な磁場配位を考える。磁場棟結の原理がなければ,間の磁場はしだいに消しあって(つまり,点線部の電流層で磁場のエネルギーがジュール熱に変わって)磁場エネルギーが解放される。磁場凍結の原理が働いていると,磁力線の数は保存しなければならないから,例えば左右からプラズマを押して間隔を縮めても決して磁場が消えることはなく,逆に磁力線の間隔が縮まって磁場エネルギーはふえるばかりである。ところが,なんらかの理由で,中心の一点で凍結の原理が破れたとすると,図2bのような磁場配位に転移することができる。図の中央を見ると,はじめ左右に分離していた2本の磁力線(1 - 1',2 - 2')が今は左右のプラズマに共有され(1 - 2,1' - 2'),確かに磁場凍結の原理を破っている。磁力線の形状の変化は力の分布にドラステイックな変化をもたらす。(1 - 2,1' - 2')のようなカーブした磁力線は縮もうとするので,その張力で,間のプラズマはジェットとなって上下両側から吹き出す(白抜きの矢印)。かわりに左右からプラズマが新しい磁力線とともに入ってきて失われた磁力線が補給され,このプロセスは準定常的に維持される(一点での磁場凍結の破れが全体の力学を変えるところがポイントである)。
図2 磁気リコネクション
このような磁気リコネクションのモデル(磁場エネルギーの解放とプラズマジェットの形成)は,現在さまざまな天体に適用され,身近なところでは,太陽のフレア現象を理論的に説明するモデルとして,最近の「ようこう」衛星のX線観測により目にみえる映像と比較して議論できるようになった。
3.磁気リコネクションによる尾部形成もともと太陽風の磁場は時間的にゆらいでいる。地球の磁場は太陽風のぶつかる磁気圏前面で北を向いているから,太陽風磁場が南向きのときに反平行の磁場配位ができて磁気リコネクションが起こると考えるのが従来の考え方であった(図1bの磁気圏前面からはみ出た磁力綿が図2bの2本の磁力線(1 - 2,1' - 2')にあたる)。しかし,それならば,太陽風磁場が北向き成分を持つときは,尾部は図1bのような形にもどってしまうのかという疑問があった。これに関して,「GEOTAIL」衛星は次のような解答を出した。
(1) 尾部は太陽風磁場の方向に関係なくほぼ同じ断面積で存在する。
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図3 磁気張力によるトルクと磁気中性面のひねり
この効果は地球近くでは小さいが,「GEOTAIL」衛星の観測した遠い尾部では十分検出可能な大きさになる。実際,「GEOTAIL」衛星は,地球半径の200倍の距離で磁気中性面がyz面内で平均20度余り回転していることを見出した。内外の磁力線がつながっていない限り尾部の磁力線がトルクをうけることはないから,尾部がひねれていることは,磁気リコネクションが起こっていることの強い証拠となりうる。このひねり角の解析から,太陽風磁場が北向き成分を持つときも,太陽風の磁場と地球の磁場は磁気リコネクションをおこしていることがわかった。さらに重要なこととして,太陽風プラズマがリコネクションをおこした磁力線に沿って回転しながら磁気圏内に入ってきていることがわかった。図4に,尾部断面(太陽に向かって見る)において太陽風プラズマが侵入してきている場所をグレイスケールで示す。色の濃い部分がプラズマが侵入してきている密度の高い場所を示しているが,尾部のひねりのために,この侵入場所が中性面(横軸)に対してさらに傾いていることがよくわかる。(この図は太陽風磁場のy成分が正の時の統計である。y成分が負のときは逆向きに傾く)
図4 プラズマ密度分布の尾部断面図
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4.終わりに太陽風磁場が北向きの時にも磁気リコネクションが起こっていることがわかって,尾部がいつでも在在することに合理的説明がつき,また,磁気圏の中に常に太陽風プラズマが侵入してきていることもわかって,矛盾のいくつかが解決した。しかしながら,一方で,磁気リコネクションの物理は新しい面白い問題をいくつも提起している。ひとつは,反平行な磁場配位が磁気リコネクションにどれだけ必須な条件かという問題である。現在われわれは,太陽風磁場が北向きの場合は,磁気リコネクションの起こる位置は磁気圏前面ではなく,反平行な配位が可能となる極上方に移ると解釈している。しかしながら,最近,境界面で磁場の反平行性がなりたたないところでもリコネクションが起こっている証拠も別に出てきた。したがって,磁気リコネクションに必要な磁場配位の問題は,観測的にこれから面白くなる問題である。次に,リコネクションの中心の一点では,どのようなメカニズムで磁場凍結が破れているかという問題がある。太陽フレアや,それに似た磁気圏サブストームでは,長時間にわたってためこまれた磁場エネルギーが短時間に一気に放出されるため,磁場凍結を破るタイミングと,それを決める条件というものが非常に重要である。それに対し,太陽風と磁気圏の間では,ほぼ日常的に磁気リコネクションが起こっているように見え,その間のギャップは大きい。この違いはプラズマの乱流度の違いによるものか(磁気圏のまわりの太陽風は衝撃波を通過しているため,乱流度が非常に大きい),または境界層の厚みによるものか(磁気圏境界の電流価の厚みは比較的うすい),その他,もっとミクロな過程(電子運動のスケール)の現象なのか,これからの研究の発展が待たれる。 (まえざわ・きよし) |
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