s 研究紹介 1999.12 No.225

No.225
1999.12

<研究紹介>   ISASニュース 1999.12 No.225

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リチウム二次電池材料の研究

九州大学機能物質科学研究所 山 木 準 一

1. はじめに

 リチウムイオン電池は,軽くて長時間使用できるという特徴を生かし,携帯電話やノートブックパソコンなどに広く用いられている。携帯機器には充電して何度も繰り返し使用できる電池が使用され,このような電池は二次電池と呼ばれる。図1に二次電池のエネルギー密度比較を示す。電池重量当たりでは,リチウムイオン電池がニカド蓄電池やニッケル水素蓄電池に比べて大きなエネルギー密度を持つ事が分かる。また近年,リチウムイオン電池は電気自動車や電力負荷平準化のための大型化の研究も盛んに行われており,宇宙用としての期待も大きい。それでは,どうしてリチウムイオン電池がこのような特性を持つのか,作動原理を紹介する。


図1 各種小型二次電池のエネルギー密度

2. リチウムイオン電池の作動原理

 電池が作動するには,図2に示す様に,正極と負極を電解液に浸す事が必要である。充電時には,外部から電流を強制的に流すことで,正極の結晶の中にあったリチウム原子をリチウムイオンとして電解液中に放出させ,同時に電解液中のリチウムイオンを負極の結晶の中に挿入する。放電はこの逆反応で,負極中のリチウム原子が正極中にもどり,負極で発生する電子が外部回路で仕事をして正極に戻る。リチウムイオン電池が他の電池に比べて大きなエネルギー密度を持つ最大の理由は,他の電池電圧が1.2Vなのに対して,3.6V3倍もの高い電圧を実現している為である。この様に,電圧が高いと電解液が電気分解するため水溶液は使用できず,非プロトン性有機溶媒電解液が用いられる。


図2 リチウムイオン電池の作動原理

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 実際の電池は金属箔上に電極材料を薄く塗布してポリマーで固めた電極シートが用いられ,図3のように正極シート・セパレータ・負極シートを交互に重ね,巻取った構造になっている。


図3 リチウムイオン電池の構造

3. もっと良いリチウムイオン電池を実現するには

 より良い電池実現には高エネルギー密度などの性能だけではなく,価格の低下や安全性の向上,廃棄時に環境を汚染しない事などを総合的に考える必要がある。

3.1 新規正極材料

 市販電池には正極材料として主にLiCoO2が使用されているが,一部ではスピネル構造のLiMn2O4が使用されている。LiMn2O4の特徴はLiCoO2に比べて安価であり,また発火などの安全性に優れている点である。しかし,45℃以上では,自己放電が激しく充放電寿命も低下する欠点があり,多くの改良研究がなされている。その他,LiCoO2と同じ結晶構造を持つLiNiO2の使用が検討されている。この正極活物質はエネルギー密度の増加が期待できる興味深い材料であるが,発火などの安全性に問題があり,当研究室でも改良研究を行っている。また,当研究室では,酸素原子の代わりにSO42-PO43- MoO42-などのポリアニオンを用いたFe2(SO4)3などを正極に用いる事で,高価なCoを代わりに非常に安価で環境にやさしいFeなどが使用できないかを検討している。

3.2 電池電圧の理論検討

 電池の電圧および取り出せるエネルギーは放電に伴う電気化学反応による正極と負極のエネルギー変化に関連し,エントロピー関連の発熱・吸熱で生じる電池外部との熱の出入りも考慮する必要がある。エネルギー保存則が成り立つため,上記のエネルギー変化より電池から取り出せる最大エネルギーを求める事が出来る。しかし実際には,電池電圧を理論的に予測する事は困難であるため,当研究室では正極と負極の結晶構造からクーロンポテンシャルを考慮して電池電圧を理論的に求める方法を検討している。新しい正極材料や負極材料を探索していく上で,電圧を予測する事は重要な手がかりを与えると思われる。

3.3 電解液

 最近では5Vもの高い電位を持つ正極材料の発見も報告されており,電解液の酸化分解が問題となる。酸化分解電位の測定値が研究者により大きく違う事から,当研究室では,酸化分解電位の意味や測定法を研究しており,さらには高電位に耐える新電解液材料の発見をう予定である。電解液は水分の混入をさける必要があり,図4の乾燥アルゴンを満たしたグローブボックス中で実験を行っている。


図4 乾燥アルゴンを満たしたグローブボックス

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3.4 安全性

 リチウムイオン電池は他の電池が水溶液の電解液を使用しているのに対して,可燃性有機溶媒の電解液を用いている。内部短絡などで電池温度が上昇すると,特に過充電時に,これが引き金となって様々な材料の熱分解が発生し,電池の発火につながる。特に電池が大型化すると電池内発熱で上昇した電池温度が外気による自然冷却で低下しにくくなるため,安全性の確保は慎重に検討する必要がある。実際の携帯電話などの電池パックには過充電保護の電子回路が入っており,安全性を保証しているが,使いやすい電池実現および大型化のために,安全性の改良は重要な研究テーマである。当研究室では,これらの発火にいたるメカニズムの検討を行うとともに,電池構成材料の熱分解開始温度の測定を行い,高温でも熱分解しない電解液材料・正極材料・負極材料を発見するための基礎研究を行っている。

4. おわりに

 リチウムイオン電池は世界に先駆け日本で最初に実用化された電池であり,日本をはじめアメリカ・ヨーロッパ・韓国・中国でも多くの研究開発が行われている。その用途は,携帯機器をはじめとして,電気自動車や電力負荷平準化のための大型化をねらった研究も盛んに行われている。近年,リチウムイオン電池の宇宙用として用途も見え始め,地上用とは異なる特性が要求される事から,電池研究者として非常に興味深い用途であると考えている。

(やまき・じゅんいち)


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