No.225
1999.12

ISASニュース 1999.12 No.225

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サンチャゴ発

松 尾 弘 毅

 サンチャゴに行ってきました。

 H-II A初号機のピギーバックペイロードとして打ち上げられる予定の高速再突入機DASHの追跡支援を,チリ大学サンチャゴ局(CEECentro de Estudios Espaciales)に依頼することになっており,今回の本務は搭載トランスポンダと地上局との適合性試験です。同行はNECの松井,葛西両君。むしろ私が同行か。

 宇宙研とサンチャゴ局とのつきあいは極めて長く,そもそも“おおすみ”のとき最初に電波を受けたのが同局であったと記憶しています。以来,この関係は続いており,私がトランスポンダについて深い見識を有していないことは周知の事実であるにもかかわらず今回出掛けたのは,かねてより現地を一度見ておきたかったからということになります。

 途中ダラスで4時間の乗り継ぎ待ちをはさんで,12時間ずつ,半死半生で日曜(10月24日)の朝サンチャゴ着。

 私たちの歩いた限りでは,街は近代的で綺麗で,いわゆる旧市街にもそれらしい雰囲気の建物はあのアジェンデ大統領が立籠ったモネダ宮殿など僅かに散在するのみです。これはちょっと期待はずれでした。市のほぼ中心にあるサンクリストバルの丘に登って,はるかに冠雪のアンデスを望むはずでしたが,これも快晴にもかかわらず,もやで駄目。この時期,雨上がり以外は期待出来ないそうです。治安は悪くないようで,ダウンタウンでも明るいうちは大丈夫,暗くなったらやめておけというのが平均的な意見でした。ただ,かつて日本のメーカの人が,“totally safe”と言われて一日掛かりで旧駅の絵を描いてきて本当に大丈夫だったそうですが,“あれは単にtotally luckyだっただけと私なら言いたい”と局の所長さんのコメントがありました。

 さて,月曜日。腕まくりしてという段取りでしたが,まあ,無事には始まりませんでした。

 局のDiaz所長以下紹介し合ったところで,イキナリ,日本から送った肝心のトランスポンダが,空港には着いているものの通関に手間取ってまだ手許に届いていないとのこと。この時点では日程に若干の余裕もあり,チリ大学当局の努力におまかせすることにして,午前中は試験手順の確認で十分有意義に過ごしました。午後は当方があまりアンデス,アンデス言うもので,局の車でアンデス山中標高3000mのオフシーズンのスキー場へ。いやまあ大変な道路で,自分が運転出来ないので放胆で聞こえる私も着いた時にはグッタリで,運転手のMartinez氏のプライドをえらく満足させてしまいました。帰り,松井君に助手席に座るかときくと,
I respectfully refuse,sir”とのことでした。

 火曜日。少なくとも本日中には届かないとの事。これは,チョットしつこく聞かざるを得ません。Diaz氏の知る限りでは,NECの現地代理業者がチリ大学に免税手続きのための文書を依頼するのが遅く,それに税関の担当者の病欠などが重なって,大学の関係者が色々と手を打っているところだとのこと。当方としてはどうにもなりません。NECのお二人にはイザとなったら滞在を延長して貰うことにし,日本ではトランスポンダ紛失の報が流れるなど余興はありましたが,一日を無為に過ごすことになりました。とにかく,滞在先のホテルのある市街地から局まで1時間はかかる上,移動は局の車で送り迎えしてくれるので,かえって気儘に動くことができません。

 水曜日。ようやく午後には入手予定との報に接し,二日半遅れで試験開始。

 夜,チリ大学物理数学部長のPerez氏ならびにDiaz所長と会食。学部長に
What is your speciality or should I ask was ?”と切り出したところ,“そのことそのこと”ということで談大いに弾むことになりました。

 その後当方先方とも大いに頑張り,ギリギリの金曜午後に無事日本向けに器材を返送し,その足で帰国することができました。サンチャゴ局は小さな世帯ですが技術者のプロ意識は高く,残業はいくらでもOKと申し出てくれるなど大変気持ちよく過ごすことができました。

 さてトランスポンダの件。現地代理業者の言い分はまた別にあって,羅生門か藪の中かといったところですが,どうも税関担当者の病欠辺りが決め手になったのではないかというのが私の心証です。

 帰国後,疲れを物ともせずMHIとの定期戦で4イニングを投げて自責点ないしという快挙を演じましたが,これは本稿とは全く無関係につき,この辺で。

(まつお・ひろき)


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