No.182
1996.5

ISASニュース 1996.5 No.182

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宇宙通信工学(5)  電波航法

加 藤 隆 二 

 今回は探査機の軌道を決める方法(航法)について話をします。軌道決定の目的としては,追跡局のアンテナを探査機に向けることがあげられます。地球周回衛星の場合は,電波が強く自動追尾が可能ですが,深宇宙探査機の場合は通信距離が長いため,電波が弱く,軌道決定にもとづいた角度予報によりアンテナを動かすプログラム追尾方式が必要となります。また,月および惑星の探査ミッションでは,軌道制御のために高精度な軌道決定が要求され,さらに科学観測からの軌道決定への要求も高くなってきています。

 軌道決定のための測定データとしては,レンジデータとドップラーデータがあげられます。追跡局から送信された電波は探査機で折り返され,再び追跡局で受信されますが,その時の往復伝搬時間がレンジデータで,光速をかければ視線方向の往復距離になります。また,ドップラー効果による周波数のずれのデータがドップラーデータで,視線方向の速度を表します。

 レンジ測定では,レンジ測定用の連続波(レンジトーン)を通信の電波に載せて送信し,送信されたトーン信号と同じ位相を局で受信するまでの送受信時間を測ります。しかし,往復距離が波長の整数倍異なっていても正弦波の場合には同位相になるため,1波長(500KYでは600m)以上の往復距離では,波長の整数倍の距離の不確定が残ります。その不確定を除くための方法としては,目印として疑似雑音信号をレンジトーンに載せる方法があり,当研究所の鹿児島宇宙空間観測所(主として地球周回衛星用)で用いています。また,レンジトーンより低い周波数(波長が長いため測定可能距離の長い)で周波数の異なる連続波を複数送信し,その組み合わせで往復距離30万H以下の不確定を取り除き,30万H以上は軌道の予測で取り除く方法があり,深宇宙探査機向けの臼田宇宙空間観測所で用いられています。

 ドップラーデータの測定方式には,衛星上の予報送信周波数と追跡局での受信周波数とのずれを測る1ウェイドップラー方式と,追跡局での送信周波数と受信周波数とのずれを測定する2ウェイドップラー方式があります。当研究所では2ウェイドップラー方式を採用しており,測定周波数は2倍の視線速度を表します。

 軌道決定は,これらの測定データをもとに統計的手法を用いて行っています。代表的な方法は次の様になります。まず,ある時刻での探査機の位置と速度(初期値)を仮定し,探査機に働く力を考慮して測定時刻における位置と速度を求め,その値からレンジおよびドップラーの値を計算して測定値と比較します。その差が大きい場合は初期値(位置と速度)を修正して,始めからやり直し,計算値と測定値の差が充分小さくなるまで繰り返します。初期値(位置と速度)が求まれば,探査機に働く力を考慮して,任意の時刻での位置と速度が求められますので,探査機の軌道が決定したことになります。

 このレンジおよびドップラーデータによる軌道決定をさらに高精度化するために,測定データとしてデルタVLBIデータが考えられています。VLBI(超長基線干渉技術)は、距離のわかっている非常に長い距離にある2つの大型電波望遠鏡によって数十億光年もの距離にあるクエーサーからの電波を受信し,電波の到達時刻の差からクエーサーの方向を精度良く求める技術です。この技術の探査機の軌道決定への応用がデルタVLBIです。

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 図に示すように長い距離にある2つのアンテナで探査機とクエーサーを観測することにより,クエーサーに対する探査機の位置が決定できます。クエーサーの方向は長い間の観測で知られていますので,精度の高い角度データが求められます。角度データは視線方向と直角なデータであり,視線方向データであるレンジデータおよび2ウェイドップラーデータとの併用により高精度の軌道決定が期待され,宇宙研では深宇宙探査機への適用を検討しています。

(かとう・たかじ) 


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