宇宙科学談話会

ISAS Space Science Colloquium & Space Science Seminar

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EHTCのM87ブラックホールの「リング」像は本物か? ─ 観測データの独立解析の結果 ─

三好 真(ミヨシ マコト)
国立天文台

小田稔が「はくちょう座X-1」のX線観測から「ブラックホール」である可能性を言及したことから始まった観測的ブラックホール研究は今や興隆を極め、2020年には天の川銀河系中心の大質量ブラックホールの存在検証に対してノーベル物理学賞が与えられるまでになった。
そのなかでVLBIを用いて「ブラックホールを見る」観測が検討され、早くも2019年にその成功がEHTC(Event Horizon Telescope Collaboration;EHTC)から報告された。EHTCの報告した銀河M87の大質量ブラックホール像として直径42μasのリング像の大きさであったが、これは推定60億太陽質量から相対性理論によって予想されるシャドーサイズと一致していた。
ところが、このリングサイズは同時にEHTのPSF(point spread function)に現われる凹凸の間隔とも一致することに講演者らは気がつき、独自のデータ解析を始めた。EHTCの報告したリング像はM87の天体像ではなく、PSFの特徴、つまり望遠鏡の光学系のくせを取り込んで合成してしまったものだと結論した。講演者らは独自に像合成も行い、M87の宇宙ジェットに関わる構造も見いだしている。講演では、どちらがより正しい像であるか客観的事実から示してゆきたい。
時間があればEHTCが最近発表した天の川銀河系中心のブラックホール像についても言及し、スペースや月面からの観測の可能性も含め、よりよい「ブラックホールを見る」観測装置に関する提案も行いたい。

研究管理棟2階会議場(1236号室)、Zoom 開催