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特集

「あかり」で切り開く遠方銀河団フロンティア

小山佑世 東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻
後藤友嗣 ハワイ大学 日本学術振興会特別研究員

 「あかり」は、遠方宇宙の「銀河団」の観測に威力を発揮しています。銀河団はその名の通り銀河の集団ですが、実はその周辺にも、銀河団の重力に引かれて銀河団へ集まろうとしている銀河がたくさん存在します。最近のさまざまな研究から、このような銀河団の周辺の環境は、銀河の進化に大きな影響を与える重要な場所ではないかと考えられています。銀河団の進化を解き明かすには、遠方つまり過去の銀河団へとさかのぼり、さらに銀河団領域だけでなく、その周辺領域までを広く見渡すことが必要とされています。

図25 70億光年彼方のRXJ1716銀河団領域
「すばる」望遠鏡による可視光カラー写真(一辺は3.5分角)の上に、「あかり」による中間赤外線(15マイクロメートル)の明るさを等高線で重ね書きしている。中間赤外線で明るい銀河が銀河団周辺にたくさん見えている。

 そこで小山らのグループは、「あかり」の広い視野を生かし、北黄極近くに位置する70億光年彼方の銀河団RXJ1716.4+6708を中間赤外線(15マイクロメートル)で重点的に観測しました。中間赤外線の観測では、大量の暖かい塵を伴って激しく星形成活動を行っている銀河をとらえることができます。解析の結果、このような赤外線で明るい銀河は、銀河が最も集中している銀河団の中心領域には見つからず、その外側を取り囲むように存在していることが分かりました(図25)。さらに今回、広い視野の観測によって初めて、このような赤外線で明るい銀河が、銀河団周囲のフィラメント構造に沿って、銀河団からかなり離れた場所にまで存在していることも分かりました。「あかり」による広い視野の赤外線観測は、銀河団の周辺環境で銀河はその性質を確かに変えられつつあること、そして今回見つかった銀河団周辺の赤外線で輝く銀河たちが銀河団の進化を解き明かすための重要な鍵を握っている可能性を、示したのです。

図26 「あかり」による銀河団探査によって90億光年先に新しく発見された銀河団の一例
左は「すばる」望遠鏡による可視光線の画像。右は「あかり」による赤外線(4マイクロメートル)の画像。○を付けてある銀河が銀河団に属する銀河。

 以上のように、遠方の銀河団は、環境が銀河に及ぼす作用を調査するための重要な研究対象なのです。しかしながら、80億光年より遠くの銀河団は、発見することがこれまで非常に困難でした。宇宙膨張によって可視光が赤外線領域にシフトしてしまうため、可視光線望遠鏡の探査では見つからないからです。「あかり」は、ここでも力を発揮することができます。「あかり」による近赤外線での観測によって、これまで可視光線では困難だった、80億光年より遠くの銀河団を見つけることができるからです。後藤らのグループは、赤外線のこの特徴を生かして、「あかり」北黄極領域のデータから70億〜100億光年先の銀河団の探査を行いました。銀河団の検出には、銀河団に所属する銀河に特徴的な色に着目することで、たまたま同じ方向に見える無関係な銀河の混入を取り除き、検出効率を上げる工夫がなされています。結果、16個の新しい銀河団を発見することに成功しました。図26に90億光年の距離にある銀河団の画像を例示します。左が「すばる」望遠鏡による可視光線のイメージ、右が「あかり」による赤外線(4マイクロメートル)のイメージです。○を付けてある銀河が銀河団に属する銀河です。これらの銀河団はどれもあまりに遠方のため、赤外線でなければ発見は困難でした。「あかり」は銀河団研究のフロンティアを、より遠方に向かって切り開き始めたといえるでしょう。

(こやま・ゆうせい、ごとう・ともつぐ)