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特集

迷光を防ぐ手づくりレンズフードプリコリメータ

森 英之 京都大学大学院 理学研究科

 デジタルカメラのレンズ同様、透過力の強いX線を集光するのがX線望遠鏡(X-Ray Telescope:XRT)です。ところが、集光能力の高いレンズなので、視野外の天体からのX線も一部焦点面検出器に届いてしまいます。非正規の経路で検出器面に入ってくるこれらのX線は迷光と呼ばれ、像のコントラスト低下の原因になります。X線天体の光度は数桁の範囲にわたることも多く、視野外の極めて明るいX線源からの迷光によって、観測天体が覆い隠されることも珍しくありません。
 迷光フリーな望遠鏡を実現したいという私たちの願いは、手づくりの「プリコリメータ」として結実しました。プリコリメータとは、要するに、望遠鏡入射側に実装されるアルミニウム製の遮光用レンズフード(高さ30mm、厚み120μmの円筒)です。ただし、X線を集光する反射鏡1枚1枚にフードを配置します。反射鏡はわずか15cmのすき間に175枚という稠密さで同心円状に積層されているため、プリコリメータはさながらアルミニウムでつくったバウムクーヘンのようです(図38)。

図38 「すざく」X線望遠鏡のプリコリメータ

 プリコリメータ製作も、お菓子同様、時間と手間がかかります。円筒フードについては特に、円筒金型に押し付けたまま180℃に加熱すること(熱成形)で真円度を高める工夫がなされており、望遠鏡5台分、計3500枚の製作に1年近くを費やしました。ほかにも、厚み180μmの各反射鏡の真上に10〜20μmの精度でフードを配置する位置調節方法や、望遠鏡1台当たりわずか2.7kgという驚きの軽さでありながら十分な機械強度を有するハウジング設計など、プリコリメータには「すざく」独自のノウハウがたくさん詰め込まれています。今日も「すざく」の「目」は、外乱に惑わされることなく、観測対象だけを真摯に見続けていることでしょう。

(もり・ひでゆき)