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特集

高解像度観測を可能にした衛星微小擾乱源管理

一本 潔 国立天文台 ひので科学プロジェクト 准教授

図38 一次噛合わせ試験における微小擾乱測定風景
衛星をばねでつるし、望遠鏡の鏡の振動を高感度加速度センサで測定。

 「ひので」の可視光磁場望遠鏡(SOT)が回折限界分解能を達成できた背景には、長年にわたる微小擾乱との戦いがあった。衛星の中にはモーメンタムホイール、慣性系基準装置(ジャイロ)、および観測装置内の多数の可動機構があり、望遠鏡の鏡が運悪くこれらの発生する擾乱に共振すると、CCD上の像が動いてシャープな画像が得られなくなる。SOTの有する画像安定化装置が有効に働くのは15Hz程度までであるため、それよりも高周波の擾乱については、擾乱源の徹底した管理と擾乱伝達の抑制によって要求を達成しなければならない。これはあらかじめ定量的に予測することが大変難しい課題であり、微小擾乱に対する取り組みは、設計による保証よりも、実験による検証の道を取る必要があった。
 そのためPM(プロトタイプモデル)・FM(フライトモデル)フェーズを通して、微小擾乱伝達特性の測定や可動機構を動かした像安定度の測定を、衛星レベルの試験として繰り返し実施した。図38は、衛星全体をばねでつるし、加速度センサによって鏡の振動を測定する試験の風景である。これらの実験結果に基づき、一部ジャイロの回転数の見直しと搭載位置の変更、モーメンタムホイールの回転数の制限、構体パネルへの補強材の追加などを行い、ようやくSOTの像安定要求を満足する見通しを立てることができた。

図39 軌道上での画像安定化装置センサ信号でとらえた擾乱スペクトル
2006年10月31日。安定化装置サーボON、定常稼働物はすべて稼働状態。

 図39は、軌道上において画像安定化装置センサ(580Hz)によって測定された像擾乱スペクトルである。指向誤差はX、Y方向にそれぞれ0.010、0.009秒角(rms)と、ほぼ予測通り、かつ要求を十分に満足するものである。微小擾乱による指向誤差は、「ひので」の開発において最も困難な課題の一つであった。早い段階から実験的に指向擾乱を評価してフライトモデルの製作にフィードバックできたこと、可能な限り軌道上に近いコンフィギュレーションで信頼に足る測定を実施できたことが、成功の要因であろう。         

(いちもと・きよし)