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特集

多波長同時観測の威力

David R.Williams 英国ロンドン大学マラード宇宙科学研究所
EISプロジェクトサイエンティスト
※宇宙科学研究本部に駐在

 2006年9月に「ひので」が打ち上げられたとき、太陽活動度は低調な状態にあった。衛星と望遠鏡の初期立ち上げ作業を進めるかたわらで、望遠鏡運用に携わる私たち研究者は、太陽で起きる活動的な現象を調べるための観測プログラムの準備に追われていた。その観測プログラムが初めて使われるときは、すぐにやって来た。
 「ひので」には、太陽が静かであっても活動的であっても観測できる望遠鏡が搭載されている。太陽表面(光球)とそのすぐ上空の大気(彩層)は、常に明るくダイナミックだ。可視光磁場望遠鏡(SOT)は打上げ以来、光球と彩層の素晴らしい画像を取得し続けている。SOTが取得する太陽表面の磁場データは非常に印象的だ。小さな正極と負極の磁場が現れたり、動き回ったり、衝突したり、また見掛け上消滅する様子も見られる。極端紫外線撮像分光装置(EIS)は、SOTが見る大気よりもさらに上空の大気、温度が急上昇する遷移層と高温のコロナの振る舞いをとらえ、複雑な3次元データを取得している。私が深く関与しているEISの観測によって、よじれたフィラメントがほどけていかない一風変わった現象や、極端紫外線(EUV)で暗い領域が非常に速いプラズマ運動に満ちあふれていることが分かったり、また低速太陽風の新しい流源の可能性を示唆するデータが得られている。また、X線望遠鏡(XRT)は、SOTやEISによって観測された活動現象について、時には早く、また時には驚くほどゆっくりとコロナ構造が応答する様子を、見事にとらえている。

図32 2006年12月17日に発生したXクラスフレアの合成画像
「ひので」搭載の3つの望遠鏡による同時観測の威力を示している。可視光磁場望遠鏡(SOT)の可視画像は青色で、X線望遠鏡(XRT)のX線画像は赤色で、そして極端紫外線撮像分光装置(EIS)による画像は緑色を用いて合成した。
(画像作成:D. Brooks, D. Williams)

 太陽で起きる現象を同時に3つの望遠鏡で観測することによる威力は、2006年12月17日に早くも示された。太陽の縁に存在した活動領域が巨大なフレア(図32)を引き起こし、「ひので」の3つの望遠鏡すべてが同時に観測することに成功したのだ。太陽表面と彩層、コロナと遷移層とが、どのように結び付いているかは、まだ理解に乏しい。計算機上の計算モデルでは、このような多層の大気構造のうち、おそらく1つか2つの層しか取り扱うことができていない。多層大気構造間の相互結び付きは、非常に明確な観測なしには物理的に理解することは極めて難しいのだ。
「ひので」はすでに、そのような研究を可能とするデータを取得している。このようなブレークスルーをもたらす科学衛星は、大規模な国際協力の実現によって初めて可能となったのである。

(ウィリアムズ・デービッド)
(清水敏文 訳)