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特集

「ひので」X線望遠鏡による日食観測

鹿野良平 国立天文台 ひので科学プロジェクト 助教

 皆既日食で目にする王冠状の神秘的な光は、太陽外層に広がる希薄な大気から届くもので、その大気を我々は「コロナ」(Corona:ラテン語で「王冠」の意)と呼んでいます。このコロナ、実は100万度以上のプラズマでできており、X線で明るく輝いています。皆既日食は地上からコロナを観測する絶好の機会ですが、「ひので」搭載のX線望遠鏡(XRT)では、図15のような太陽コロナを常に観測できます。日食現象は、「ひので」でも年に数回観測され、2007年2月17日にも部分日食がありました。太陽の南極のコロナホール(図16aの暗い領域)が月によって掩蔽(えんぺい)される様子(図16b)が、XRTでも観測され、コロナホールに対する貴重なデータを取得することに成功しました。

図15 X線望遠鏡(XRT)による太陽コロナ全面像

図16 XRTによる2007年2月17日の部分日食の観測(Kano et al. 2008より)

図17 コロナホールとその上空の温度マップ
複数フィルターで掩蔽が観測できた図16aの点線内のみを解析した。(Kano et al. 2008より一部改変)

 XRTにとっては観測対象が月で隠され、一見、邪魔に思える日食現象ですが、その観測が注目される理由の一つに、望遠鏡内の散乱という現象があります。XRTでは、鏡がX線を集めて像をつくっていますが、その鏡面はX線の波長に比べるとどうしても粗いので、できた像の周囲にX線が若干散乱します。コロナホールのような暗い領域を解析するためには、周囲の明るい領域から混入する散乱X線の量を正確に評価することが重要です。そこで、部分日食データが役立ちます。通常のX線画像(図16a)のコロナホールで観測される明るさは、コロナホール自身からのX線と周囲から混入する散乱X線との和ですが、月による掩蔽中の画像(図16b)では、周囲から混入する散乱X線のみです。つまり、両画像の差分が、コロナホール自身から来るX線強度となるわけです。これを温度感度の異なる2種類のX線フィルター画像で行うと、図17のように、暗いコロナ構造に対しても正確な温度マップが求まります。現在、これらの温度構造の検討から、太陽コロナを100万度以上に加熱する機構の解明が進められています。また、コロナホールは、地球環境にも影響を与える太陽風の源泉と考えられていて、太陽風の加速機構の解明の点でも、ここでの研究が注目を集めています。
 今後もXRTは、太陽コロナのさまざまな姿をとらえるとともに、その温度構造を明らかにすることで、「ひので」搭載の他の望遠鏡(可視光磁場望遠鏡、極端紫外撮像分光装置)と連携し、太陽大気の物理現象の解明に貢献していきます。

(かの・りょうへい)