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特集

小惑星科学の今後

佐々木 晶 国立天文台 教授

 「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワは、本特集で紹介されているように非常に面白い天体で、新しいさまざまな科学的事実をもたらしました。世界の小惑星研究者で、“はやぶさ”“イトカワ”の名前を知らない者はもはやいないでしょう。
 これまで探査機が訪れた小惑星は、いずれも“レゴリス”と呼ばれる微細粒子に覆われていました。イダやエロスでは、表面に散在する岩塊が確認されましたが、小惑星上の衝突で内部から放出された破片と考えられており、天体の内部構造を直接は反映していません。大きさが1kmに満たないイトカワは、重力が小さく微細粒子のレゴリスは散逸したため、荒々しい岩塊に覆われた小惑星の裸の姿が、初めて明らかになったのです。イトカワの姿は、小惑星そのものが、大きな天体の衝突破片が集積した岩塊の集合体(ラブルパイル)であるという、これまで提唱されていたモデルを強く支持します。
  リモートセンシング観測は大きな成果を挙げましたが、小惑星のサンプル分析という課題は残っています。赤外分光、X線分光の結果から、イトカワはLL型隕石の組成である可能性は高くなりました。これをサンプル分析によって確認したいのです。また、細かい粒子のレゴリスがないにもかかわらず、弱い宇宙風化は示しています。もし、「はやぶさ」が小岩片を持ち帰れば、その表面が宇宙風化を受けているかどうか、確認できるでしょう。
 我々は、小惑星の数あるタイプのうち、S型という1種類の天体を探査した段階です。もう一つの小惑星の代表的タイプ、C型天体を調べるという大きな課題は残っています。C型小惑星もイトカワのような岩塊の積み重なり(ラブルパイル)なのか、それとも異なった姿なのか? また、C型小惑星の物質は本当に炭素質隕石と対応しているのか? さまざまな疑問があります。次のステップとして、C型天体のサンプルリターンを目指す意義は大きいでしょう。

図14 小惑星の内部をもっと知りたい

 サンプルリターン以外にも、小惑星の構造にはまだまだ調べるべき課題があります。イトカワは岩塊の積み重なりで、密度からは40%という高い空隙率が推定されています。次のステップとして、小惑星の内部がどのようになっているのかを地震波や電波で調べてみたい。イトカワ表面の宇宙風化度の変化は、天体全体が揺さぶられた可能性を示しています。天体内部では岩塊の間に何らかの結合力が生まれているようです。また、イトカワと同じくらいのサイズの天体で、非常に自転速度が速く遠心力が自己重力を上回っている天体が発見されています。この高速自転小惑星は、巨大な(いわば一枚岩の)岩体であると考えられています。これが本当なのか、このような天体をフライバイで観測することも、興味深いと思います。
 イトカワは小惑星科学の目的地ではありません。私たちは、広がる将来へ向けての一歩を踏み出したにすぎないのです。

(ささき・しょう)