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特集

イトカワの3次元形状

平田 成 会津大学コンピュータ理工学部 准教授

 

“イトカワといえばラッコ”と、今ではすっかり有名になったイトカワの奇妙な形は、「はやぶさ」のランデブー探査で初めて明らかになったものです。しかし、実は地球からでも、遠く離れた小さな天体の形を推定することができるのです。イトカワのように細長くとがった形をした天体が自転している様子を地球から見ると、あるときには細長い辺が横向きに、また別のときにはとがった部分が地球の方を真っすぐ向いている、という状態になります。つまり、地球から見たときの大きさが、時期によって変わってくるのです。小惑星は非常に小さいので、普通の望遠鏡では光の点としか見えませんが、それでも大きさの違いを光の強さの違いとして観測することができます。この光の強弱のパターンから、小惑星の形、特にどれくらい細長いのか、という情報を引き出すことができるのです。この方法を“ライトカーブ法”といいます。また、電波を小惑星に当てて、跳ね返ってくる信号をとらえるレーダー観測によっても、小惑星の形を調べることができます。「はやぶさ」が到着する前は、レーダー観測が、イトカワの形を知る最も詳しい方法でした。しかし、ライトカーブ法やレーダー観測はイトカワのようにくびれた形を調べるのはなかなか難しく、あのラッコの形は、やはり「はやぶさ」のように探査機が近くまで行ってみないことには分からなかった、ということになります。
 では、探査機が小惑星の写真を撮れれば、すぐに形が分かるのかというと、これもそう簡単ではありません。人間の目と頭脳は優秀なので、写真を見れば何となく物体の形を脳裏に描くことができますが、コンピュータ上に正確な3次元形状を構築するためには、たくさんのデータ処理が必要です。「はやぶさ」ミッションの中では、三つのグループが独立にこの課題に取り組んでいました。それぞれのグループの手法は、処理にかかる時間や結果の詳しさに差があるので、ミッションの進行度に応じて一番適したグループの解析結果が使われていたのです。最初のグループは、イトカワのシルエット、つまり輪郭から全体の形を再現しようとしました。これは最も簡単で早く結果を出すことができました。しかし、この方法もくびれの形状を求めるのには、あまり向いていませんでした。2番目のグループは、ステレオ視の手法を用いました。ステレオ視は、人間が左右の目で物体の形状を認識するのと同じ原理に基づくものです。

図6 イトカワの3次元形状モデルからつくった4面図。10度ごとの経緯線とクレーター候補の位置(本誌7ページ参照)を書き込んである。

  現在一番詳しいイトカワの3次元形状は、3番目のShape-from-Shading(影からの形状測定)という方法を使っています。白い布にしわが寄っていると、しわの凹凸に応じたさまざまな濃淡の影が生じます。この濃淡のパターンから凹凸の様子、つまり物体の形状を推定するのが、Shape-from-Shadingの原理です。画像で観測できる濃淡のパターンの細かさは、画像自体の解像度と同程度になるので、非常に細かい凹凸までとらえることができるのです。このようにしてつくられた3次元形状モデルからは、「はやぶさ」が実際には観測することのできなかった向きから見たイトカワの画像を、本物の画像そっくりにつくり出すことができます(図6)。  

(ひらた・なる)