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特集

テラヘルツ光による天体観測技術

 最近,「テラヘルツ光」あるいは「T-ray」という言葉を耳にすることがあります。X線に代わって不透明な物体の中を調べる手段に使うことができる電磁波のことで,赤外線と電波の境界領域を指します。遠赤外線あるいはサブミリ波とも呼ばれます。遠くの宇宙を観測するために適した波長領域と考えられており,地上観測装置としてはアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA(アルマ))が,宇宙空間からはASTRO-Fによる遠赤外線観測が予定されています。

 国立天文台の天文機器開発実験センターでは,テラヘルツ光による天体観測性能を飛躍的に向上させるため,検出技術と光学技術の開発を推進しています。その中心となるのが,超伝導トンネル接合を用いた高感度検出器アレイと,この検出器を用いた超広帯域干渉計技術です。ニオブ超伝導体を用いたトンネル接合素子を絶対温度1K以下の極低温に冷却することで,感度の高いテラヘルツ光検出器が実現されました(図)。同時に,極低温で動作するCCDのような読み出し回路を開発中で,テラヘルツ光のカメラを実現できる可能性がだんだん見えてきました。



図
図 超伝導トンネル接合を用いたテラヘルツ光検出器


 このカメラを使って天体のさらに細かい構造を調べるため,干渉技術の開発も進めています。電磁波の波の性質と光子の性質を使い分けることで,数百GHz以上の周波数帯域で高感度の干渉計が実現できる見通しが得られています。宇宙空間の環境を活かした高感度広視野検出器と超広帯域の干渉計を組み合わせることで,すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡で得られるようなダイナミックな画像が,テラヘルツ光で得られるものと期待されます。宇宙で最初に形成されたプラズマ,重元素,宇宙ダストをテラヘルツ光で見通してみたいと夢見ています。


(松尾 宏[国立天文台])
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