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特集

回折限界可視光望遠鏡技術

 SOLAR-B衛星搭載の可視光望遠鏡は,空間分解能0.2秒角(もし地上を見ると,50cmのものまで分解できる解像度)という非常に高い分解能を持ち,これまでの軌道望遠鏡を約1桁上回っています(図1,図2)。太陽観測のための高分解能望遠鏡は,1970年代からNASAを中心に検討されてきましたが,SOLAR-Bで望遠鏡を日本が,焦点面観測装置をNASAが分担することで,世界で初めて実現できました。


図1
図1 SOLAR-B光学架台上の完成した可視光望遠鏡


図2
図2 完成した可視光望遠鏡


 太陽を観測する場合,観測する可視光が大きな熱を持っているため,不要な熱を宇宙に排出するなどの工夫が凝らされていますが,それ以外にも,この望遠鏡には今後の日本の宇宙科学に必須の回折限界(光の波動的性質を考慮して得られる最大の分解能)望遠鏡技術が結集されています。凹凸が6ナノメートルしかない口径50cm軽量(14kg)主鏡,打上げ環境に耐えかつ主鏡をゆがめることのない主鏡支持機構,打上げの振動や軌道での温度変動に対して主鏡と副鏡を数ミクロンの精度で保持する低膨張(0.1ppm)複合材料構造,衛星の揺れによるぶれを取り除く可動ミラーによる画像の安定化(実験室で0.002秒角の安定度を実現)などがあります。

 このほかにも宇宙での光学性能を保証するため,地上での試験にさまざまな工夫が凝らされています。望遠鏡は重力の影響を受けてゆがむため,そのままでは結像性能の確認ができません。このため,望遠鏡が正立したときと全体を反転したときの2枚の波面誤差マップの和をとります。重力の方向が逆になると望遠鏡の変形が全部逆方向になることを利用して,軌道上では望遠鏡による波面の乱れが光の波長の30分の1程度しかないことが確認されました。さらに,望遠鏡と基準の平面鏡を真空槽に入れ,地上と温度分布が極端に異なる軌道熱真空環境で光学性能および焦点位置の確認を行いました。衛星レベルでの振動試験や熱真空試験の後でも望遠鏡の光学性能を確認できる光学ポートを持つため,自信を持って打ち上げることができます。

 望遠鏡は,平成16年夏には目標性能の達成が確認されました。SOLAR-B可視光望遠鏡により,太陽の電磁流体現象の解明が大幅に進むと世界から期待されています。


(常田佐久[SOLAR-B可視光望遠鏡チーム/国立天文台])
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