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世に「御輿(みこし)に乗る人,担ぐ人,そのまた草鞋(わらじ)を作る人」なる言葉がありますが,科学衛星(御輿)に乗って観測をする天文学者,衛星を動かすシステム工学屋,衛星を作る構造屋とくると,我々材料班は草鞋のわらをたたいているようなもの,とでもいえましょうか。ただし,草鞋の緒が切れたときの事故は,大変なことになります。 さて,チタン合金は軽量高強度材料として,宇宙・航空用に広く用いられるようになってきましたが,鋼やアルミニウムとは異なって六方晶構造という水晶に似た原子配列をとっているため,思いもよらぬ現象が起きることがあります。宇宙研科学衛星の姿勢・軌道制御用燃料タンクは従来からチタン合金(Ti-6Al-4V合金)で作ってきていますが,小惑星探査機「はやぶさ」においてより高い圧力まで使用したところ,ずるずるとひずみが増加するクリープ現象が発見されました。金属のクリープは通常高温でのみ出現するものですが,図1のように,六方晶構造を持つCP-Ti(純チタン)やTi-6Al-4V合金では室温クリープ現象を示すことが分かりました。
Ti-6Al-4V合金は,タンクばかりでなくボルトとしても使用されるようになってきています。ボルトを締めた後のクリープは,そのままボルトの緩みに直結します。そこで現在,室温クリープの心配がないことが判明しているβチタン合金(Ti-15V-3Al-3Cr-3Sn合金,鋼と同様の立方晶構造をとる)ボルトを開発中です。試作したボルトは早速,INDEX衛星の強度要求の厳しいところに使用します。 また,図2に示すようにチタンは摩擦係数(ここではトルク係数で示してある)が大きく不安定であることも問題です。新開発のβチタンボルトにはコーティングを施し,安定して使用できるようにします。
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(佐藤英一[材料班/ISAS/JAXA]) |

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