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特集

宇宙史の解明に挑む次世代赤外線天文衛星SPICA

 「この広い宇宙の中,私たちはどこから生まれて,どこへ行くのでしょうか」

 この問いは,宇宙というものを認識して以来,人間が常に持ち続けてきた根源的な「問い」です。この「問い」に答えるためには,まずこの宇宙に存在する銀河・星・惑星という多様な天体が,どのように誕生・進化してきたかを調べること,すなわち「宇宙史を解明」する必要があります。

 「宇宙史の解明」のためには,赤外線での高感度,高空間分解能の観測を欠かすことができません。生まれたての銀河,生まれたての星,惑星,これらすべてが,赤外線で強く輝くと考えられているからです(図1)。



図1
図1 可視光線で見たオリオン座(左)と赤外線で見たオリオン座(右)。 若い星が生まれている領域は,赤外線で明るく輝いている。


 そこで私たちは,まず全天にわたって赤外線で輝く天体の分布を調べようと,ASTRO-F衛星の開発に取り組んでいます。ASTRO-Fには,高感度の赤外線観測のために,口径70cmの望遠鏡が搭載されています。これにより全天にわたる「サーベイ観測」を行い,100万個を超える赤外線天体を発見できると期待しています。

 このように多くの天体が発見されると,次の段階は,発見された個々の天体を詳しく観測することです。そのために,次世代の赤外線天文衛星計画として,私たちはSPICA(SpaceInfrared Telescope for Cosmology and Astrophysics)計画を提案しています(図2)。詳細観測には,大口径の望遠鏡が必要となります。大口径の望遠鏡は,多くの赤外線を集めることによって暗い天体の観測を可能にすると同時に,より細かな構造を明らかにすることもできます。そこで,SPICAでは,口径3.5mという大口径望遠鏡を搭載することを計画しています。



図2
図2 軌道上のSPICAの想像図。絶対温度で4.5Kという極低温まで冷却された3.5mの大口径望遠鏡を搭載する。


 SPICAの技術的な最大の特徴は,その冷却系にあります。従来の赤外線天文衛星では,望遠鏡の冷却のために大量の液体ヘリウムを搭載していました。そのために,比較的小口径の望遠鏡しか搭載できないという大きな欠点がありました。さらに,寿命が短いという問題もありました。SPICAでは,これらの欠点を払拭するために,液体ヘリウムを用いず,放射冷却と機械式の冷凍機だけを用いるという画期的な冷却システムを採用します。これにより,従来よりもはるかに大型の望遠鏡の搭載を可能にしています。

 上記のような冷却システムを有効に働かせるため,SPICAでは,地球と太陽が作るいわゆるラグランジュ点
の1つであるL2点(正確にはその点の周りを巡るハロー軌道)を軌道の有力候補としています。L2点では,地球と太陽という熱的に赤外線観測の大敵である2つの天体がほぼ同じ方向に並ぶため,これら熱源からの熱遮蔽が容易になります。これにより,宇宙への放射冷却を有効に働かせることができるからです。

 SPICAの観測能力は極めて優れたものです。例えば,SPICAでは,私たちの太陽系外の惑星の姿が直接にとらえられると期待されています。また,宇宙で最初に誕生した星たちの証拠を見つけられる可能性もあります。SPICAの画期的な観測能力により,冒頭に挙げた人類の根源的な問いへの答えに迫ることができると,私たちは期待しています。


(次期赤外線天文衛星ワーキンググループ)


※  ラグランジュ点:2つの天体の重力が釣り合う点L1〜L5点まで5つある。


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