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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第459号

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ISASメールマガジン   第459号       【 発行日− 13.07.09 】
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★こんにちは、山本です。

 関東地方の梅雨があけました。
急にやってきた【猛暑日】、熱中症にご注意を

とにかく、今年の特別公開は、雨の心配をしないで済むのでしょうか

「はやぶさ2」に名前やメッセージを載せるキャンペーンは、8月9日(金)が締め切りです。(編注:期間延長につき修正しました)
まだの方は、慌てず急いで応募しましょう。

 今週は、宇宙飛翔工学研究系の竹前俊昭(たけまえ・としあき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:小さなロケットの話
☆02:宇宙学校・かのや【リナシティかのや】7月14日(土)
☆03:星の王子さまに会いにいきませんか ミリオンキャンペーン2
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★01:小さなロケットの話

 みなさんはロケットと聞くと、人工衛星や探査機を打ち上げる大型のロケットを連想すると思います。しかし一方で、観測ロケットと呼ばれるとても小さなロケットがある事をご存じの方は少ないのではないかと思います。でもこの観測ロケットも、なかなか面白いロケットですよ。

今回はそのご紹介をしたいと思います。


 観測ロケットとは、人工衛星や探査機を積まない上がって落ちてくる(だけ)のロケットです。現在JAXA宇宙科学研究所では、S-310型・S-520型・SS-520型の3種類の観測ロケットを打ち上げています。
(詳しくは
 ⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/rockets/sounding/index.shtml

ロケットの名前の付け方はとてもシンプル。
S-310は直径310mm、
S-520は直径520mm、
SS-520も直径が520mmで2段式だからSが二つ、
といった様にまさにそのまんまの名前です。

これら小さな観測ロケットですが、ちゃんと宇宙と呼ばれる高さ(おおよそ100km以上)まで上がります。載せる機器の重さにもよりますが、SS-520型は1000km以上の高さにだって飛ぶのですよ。観測ロケットは打ち上げから落下までおおよそ十数分の間(S-310型・S-520型の場合)に、様々な観測や実験をするのです。


 では、その観測ロケットと人工衛星では、どんな観測の違いがあるのでしょうか。同じ地球周辺環境の観測をする時、人工衛星は面で観測します。高い高度から広く全体を見下ろすイメージです。一方、観測ロケットは縦に観測します。つまり上がって行く時と落ちて来る時に、面積は小さいのですが異なる高度を連続的に観測する事ができます。

例えばオーロラを観測する時、人工衛星は見下ろして観測します。一方、観測ロケットはオーロラの発生している所を含む上下の高度を連続して観測します。そして観測ロケットは、オーロラの中へ直接飛び込んでその場で観測する事が可能です。オーロラの様な大気と宇宙の境目で発生する現象を直接観測したいと思っても、人工衛星ははるか上空を飛んでいて無理です。飛行機や大気球では、残念ながらオーロラに届きません。オーロラを直接観測する手段は、観測ロケットしか無いのです。

宇宙研は数年おきに観測ロケットをノルウェーや北極圏に持って行って、オーロラの観測を続けています。
(参考⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2009/0126.shtml


 オーロラ以外には、電離層に関する観測を数多く行っています。7月20日にはS-520-27号機とS-310-42号機を内之浦から連続して打上げ、電離圏E領域とF領域の総合観測を行います。この打上げでは、それぞれのロケットから物質を放出して光る雲を作ってその運動を観測します。この発光雲は、四国や沖縄辺りまでの地域なら目視できるかもしれません。少し夜更ししてご覧になっては如何でしょうか。
(詳しくは⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2013/0521_s-310-42.shtml


 自然現象の観測以外でも観測ロケットは活躍します。それは、比較的手軽に宇宙という環境でいろいろな実験ができるからです。

ロケットの燃料が燃え尽きた後の弾道飛行中は、無重量状態になります。例えば結晶の成長実験を地上で行うと、当たり前ですが重力の影響を受けます。でもこの実験装置を観測ロケットに搭載すれば、無重量状態で実験する事ができます。

また、みなさんは世界初の宇宙ヨット「イカロス」をご存じでしょうか。
イカロスは宇宙空間で広げた大きな膜に太陽光を受けて進みます。観測ロケットでは、この膜の展開実験を行いました。地上では無重量状態を作るのは困難です。それに加え真空状態も、と言ったら殆ど不可能です。観測ロケットなら、無重量+真空状態が可能です。

飛行時間は十数分でも、この様な状態を得られるのはとても貴重です。観測ロケットは比較的少ないコストで、計画から実施まで短い期間で実験を行う事ができます。人工衛星や探査機に搭載する装置を開発するテストの一貫として、また新技術の検証の場として観測ロケットは利用されています。


 H-2AやH-2Bの様な大型の人工衛星打ち上げロケットに比べると、観測ロケットはとても小さく、携わる人の数も少なくなります。(と言っても打上げの時の実験班員総数は100人を超えますが)

そのため、誰が何を担当しているのか良く見えます。全員が出席して打合せ(全員打合せ:全打ち)も可能ですし、懇親会も全員で行います。横のつながりが良く、問題が起きてもその場で臨機応変に対応します。自分の担当部分のここを工夫したら、その相手が少し楽になるのじゃないか、という事が比較的思いつきやすいし、問題もアイデアも共有しやすいと思います。

小回りが利くというのは、毎回違う実験をする観測ロケットにおいて、とても重要な事なのです。またJAXAの新人にとって、観測ロケットは絶好の研修機会になっています。ロケットのサイズが小さい故に全体が見渡せる、これは専門性を磨くのと同じ位大切な事です。直にロケットに触れ、自分が組立て試験を行ったロケットが宇宙へ飛んで行く。この経験はその人にとって、とても大切で重要な礎になります。


 観測ロケットの打上げが全国ニュースに取り上げられる事は殆どありませんが、実は地道な観測や縁の下の力持ち的な所があって、その技術や成果の上に今の大型ロケットや人工衛星・探査機が成り立っていると思います。人にしろ技術にしろ、観測ロケットは宇宙への最初の一歩・入口であり、そこで人も技術も育つのです。


 最後に宣伝を一つ。宇宙科学研究所では、宇宙研ビデオ「宇宙へ飛び出せ」シリーズを製作していますが、第15巻「観測ロケット」〜空と宇宙の間のフロンティア〜が完成しました。近いうちにJAXA相模原チャンネル(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/tv_isas/index.html )で公開されますので、どうぞお楽しみに。

(竹前俊昭、たけまえ・としあき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※