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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第364号

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ISASメールマガジン   第364号       【 発行日− 11.09.13 】
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★こんにちは、山本です。

 台風が去って、関東地方には残暑が戻ってきました。電力使用制限が解除になった週末のスーパー内が涼しく感じられたのは気のせいでしょうか?

 11日は、福島第1原発事故で計画的避難区域となった福島・浪江町での【ひまわり・プロジェクト】関連のTV番組が放映されました。

 その2時間ほど前、我が家のTVが急に故障して電源が入らなくなりました。物置にあった古いアナログTVをセットして(ケーブルTVに加入していると、デジタル⇒アナログ変換してくれるのです)

なんとかTVを見ることは出来たのですが、4:3の14インチの画面が、上下カットされて16:9のさらに小さい画面になってしまいました。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の野中 聡(のなか・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:風のお話 その4
☆02:超巨大ブラックホールは何処に?
☆03:金星探査機「あかつき」の軌道制御用エンジンの第2回テスト噴射計画の変更について
☆04:S-520-26号機 打上げ延期について
☆05:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:風のお話 その4


 そろそろ来るかな、と思っていたら、やっぱり電話がかかってきました。

「あれ?ついこの前書きませんでしたっけ??」

なんて白々しいことを言ってみたりしましたが、普段からお世話になっている山本さんのお願いを断るなんてことはもちろんできません。

 はい、メルマガ4回目の登場です。4回目ともなると、そろそろネタ的に微妙ではありますが、なんとか無理矢理今回も風のお話をしてみましょう。


 みなさん、風を見たことはありますでしょうか。もともと空気は無色透明で風が吹いていても風そのものは見えないはずですよね。でも窓の外を見れば、

今日は風が強そうだな、

とか、

今日は風もなく穏やかだな、

とか思うことは日常よくあります。そう、みなさん木が揺れたり、葉っぱが舞ったり、煙突の煙が流れたりするのを見て、いつの間にか自然と風を見る能力を身につけているのです。そんな当たり前のこといまさら何言ってるのと思うでしょうが、風を見るというのはロケットの空力屋さんや流れの研究者さんにとって、とても重要なことなのです。


風のお話その2で風を作り出す「風洞」という装置についてお話をしました。
(ISASメールマガジン219号
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2008/back219.shtml

その中で「流れの可視化」ということについてちょっとだけ触れました。読んで字のごとく、

流れを見ることが(視)
できる(可)
ようにする(化)、

です。一言で「流れの可視化」といっても実にたくさんの方法があります。流れの中に煙や粒子を入れる方法、光の性質を利用する方法、コンピュータで計算して流れを見るなんていうのもあります。

 流れを可視化することは流れの研究にとってとても重要です。流れの様子を知ることで、たとえば飛行機やロケットが空気から受ける力の仕組みが理解できます。それが理解できれば、もっと性能をよくするためにはどうすればよいかのヒントを得ることができます。

 研究者だけでなく、古くから人間には「流れを見たい」という願望があるらしく、縄文土器に描かれた渦は川に浮いた落ち葉などで可視化された流れを描いたものというお話もあります(「流れの可視化入門」可視化情報学会より)。

 今回は私がやってみたことのある「流れの可視化」についていくつか簡単にご紹介します。


 まず物の表面の流れを見る方法です。物の表面の流れを見たいのであれば、流れに沿って動くものを物の表面にくっつければ見ることができます。
そのひとつに「タフト法」というやり方があります。

 たとえば車や飛行機の周りの流れがどうなっているか知りたいとします。そんなときはまず車や飛行機の模型を準備します。その模型の表面にちょび髭のような短い糸をたくさん貼り付けます。この糸のことを「タフト」といいます。これを風洞の中において風を吹かせるとタフトが流れに沿って動きます。このタフトの向きを見ることで流れの様子を知ることができます。
簡単ですね。でも糸の長さとか材質とかノウハウももちろんあります。

 同じように物の表面を見る方法として「油膜法」というやり方もあります。「オイルフロー」などと呼んだりもします。物の表面にほどよくねっとりとさせた油を薄く塗って、風で油が物の表面を流される様子を観察する方法です。

 「タフト法」や「油膜法」は古くから用いられている方法ですが、そよ風ほどのゆっくりとした流れから、音よりも速い超音速流れまで、広く使われる方法です。実際にロケットの周りの流れを見るために、つい先日もオイルフローで可視化しました。これをやるときにはうっかりすると作業着が汚れるので注意が必要です。


 次に光の性質を利用した流れの可視化です。私は学生のころに
「シャドウグラフ法」、
「シュリーレン法」、
「ホログラフィー干渉法」
という方法を使って超音速で飛ぶ物の周りの流れを可視化していました。なんだか難しそうな名前ですが、いずれの方法も光の性質を利用した可視化法です。

 たとえば空気中を超音速で飛ぶ物の周りには衝撃波ができます。そこでは空気の密度が大きく変化します。密度の違う場所では光は曲がる性質があります。この性質をうまく利用して物の周りを写真に撮ると、密度の変化しているところで影ができたり、濃淡がついたりします。光の波の位相の変化を利用すると綺麗な縞模様が現れたりします。どの方法を使うかは流れのどん な情報が欲しいのか、どこを見たいのか、流れの速さや密度はどれくらいか、などなどで決めます。

 学生のころにはそんな方法で流れの写真をたくさん撮っていました。酸っぱい匂いのする現像室で綺麗な写真が浮かび上がってきたときにはとてもうれしかったのを覚えています。


 ちょっと難しい話になってしまいましたが、「流れの可視化」にはこれら以外にもたくさんあります。それらがどんな方法なのかはまた機会があればお話ししましょうか。


 あ、ちょび髭のタフトといえば、海の浅場にアゴの下にちょび髭が生えているハゼの仲間がいます。海の中にも流れがあり、その流れによってハゼのちょび髭もまるでそよ風に吹かれるように左右に揺れます。

 あ、話がそれました。さてこれで夏休みの作文の宿題は終わり。週末はカメラ片手に海に行こう。

(野中 聡、のなか・さとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※