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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第304号

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ISASメールマガジン   第304号       【 発行日− 10.07.20 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原キャンパスは、月末に迫った特別公開の準備に追われています。公開の前には 「きみっしょん」もありますし、8月になれば、観測ロケットの実験や 大気球の実験も控えています。

 梅雨も明けて、今年の夏も 暑く、熱く なりそうです。

 今週は、宇宙探査工学研究系の福田盛介(ふくだ・せいすけ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:SPRINTシリーズをよろしく
☆02:「IKAROS」、ガンマ線バーストの観測に成功
☆03:はやぶさ2プロジェクトについて
☆04:イプシロンロケットプロジェクトについて
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★01:SPRINTシリーズをよろしく

 宇宙研では、最近、SPRINT(スプリント)という小型科学衛星のシリーズを立ち上げています。これは、みなさんおなじみの中型科学衛星の補完的な位置づけとして、特徴ある宇宙科学ミッションを迅速かつ高い頻度で実現するための新しい枠組みです。現在、栄えある1号機であるSPRINT-Aの開発が行われており、私もシステム全般の担当として参加しています。

 SPRINT-Aは高度1000km程度の地球周回軌道から、金星・火星・木星などを極端紫外線で観測し、惑星が大気を有したり生命を育んだりする条件を解明するサイエンスを行います。小型といっても、世界一級の科学成果を狙う観測機器を積んでいますので、350kg程度のいわゆる「ミニサット」と呼ばれるカテゴリの衛星です。JAXAの新型固体ロケット(イプシロン)で2013年度に打ち上げる計画となっています。


 宇宙研の小型衛星としては、2005年に打ち上げられた「れいめい」をご存知の方も多いと思います(私もその開発に深く関わった一人です)。「れいめい」では、宇宙研の若手職員や学生によるインハウス開発や、ベンチャー企業の参画など、新しい衛星開発のかたちを模索したことが特徴的でしたが、今回のSPRINTシリーズでは、バリバリの衛星システムメーカに入って頂き、持続可能な小型衛星開発の方法を探っています。日々勉強の毎日です。


 昨今、大学発の相乗り衛星など、小型衛星への取り組みは各所で盛んですが、とりわけ小型衛星の価格的なお手頃感が注目の度合いを高めているように思います。もちろん、私たちのSPRINT衛星の開発でも、低コスト化は重要なテーマなのですが、安い部品や機器を導入して値段を下げるというよりはむしろ、「はやく作る」ことの方に主眼をおいています。SPRINTという名前の由来でもある短期開発は、大メーカさんとお付き合いする上で、工数という形でダイレクトにコストに効いてくるのです。

 とはいえ、衛星をはやく作るために、雑な工程を組んだり、必要な試験をやみくもに省略したのでは当然だめで、そこで出てくるのが「同じものを使いまわす」という標準バスの発想です。新規設計を伴う「一品もの」ではなく、他品種の製品についてもリピート品を共通的に使うこのアイデアは、自動車業界などではかなり浸透しており、衛星に負けず劣らず複雑な機械であるはずの自動車が、驚くほどはやく(そして安く)製造される理由の一つとなっています。

 しかし、これまで衛星開発の世界では、「標準バス」の評判は必ずしも良くありませんでした。これは、開発される衛星の数が、例えば自動車に比べて何桁も少ないため、標準化の効果が出にくいことや、それぞれの衛星ミッションの機能要求がまちまちであるため、「帯に短したすきに長し」な標準バスとなってしまうことが多いこと、などが原因だったように思います。

 これに対して、SPRINTシリーズでは、宇宙科学コミュニティが提案する個々のミッションの多様性に対応できるような、「柔軟な」標準バスを標榜しています。狙っているところは、できるだけ衛星仕様をメニュー化しておき、ミッションユーザが自由に選択したり追加したりする、というイメージですので、「セミオーダメイド」バスと宣伝することにしています。この比喩に従えば、衛星ごとに性能をぎりぎりまでチューンアップする従来タイプの科学衛星は「オーダメイド」、古典的・画一的な標準バスは「既製品」ということになります。

 こういったコンセプトを実現するための技術的な肝は、衛星設計における各種のインタフェースを揃えておくことです。例えば、SPRINT衛星内部のデータインタフェースは、スペースワイヤと呼ばれる規格に統一しています。スペースワイヤは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が管理する国際規格ですが、わが国も日本スペースワイヤユーザー会という組織を中心に、規格仕様調整の細部にまで参加し、ESAやNASAなどの関係者と議論を行っています。スペースワイヤという標準インタフェースを導入することで、「セミオーダメイド」バスに欠かせない、機器をつけたり外したり、別の機器に入れ換えたりというような変更が容易になるわけです。

 また、オープンな標準インタフェースは、機器開発への新規参入を呼び込むという効果も見逃せません。少し長い目で考えると、多くの機器メーカが競争的に凌ぎ合う産業構造は、衛星コストの低減にとても貢献すると思います。世の中には、パソコン用の標準規格USBで繋がる扇風機などという奇抜な商品がありますが、もしかしたらスペースワイヤ対応扇風機が登場するかもしれません。
(注:スペースワイヤには電源が同包されていないなどという専門的な突っ込み以前に、真空の宇宙で扇風機というあたりでこれ自体はボツですが・・・)


 今回開発する「セミオーダメイド」バスは、何も宇宙科学の用途にとどまりません。実際、経済産業省の方では、ほぼ同一のバスを使用して、光学の地球観測衛星(ASNARO)を開発されており、その実施機関であるUSEFさんと、開発試験を共同研究で行っています。実は、私の裏の専門分野は、マイクロ波リモートセンシングなのですが、このバスを使った複数衛星で、合成開口レーダ(SAR)のコンステレーションミッションを考えるのも楽しいな、などと思っています。(その話はまたの機会に)

 いずれにせよ、ちょうど新車の検討をするときのようなノリでカタログ片手に衛星を注文できる、そんな夢の未来の一歩となるよう、SPRINTシリーズの開発を頑張りますので、応援のほどよろしくお願いします。

(福田盛介、ふくだ・せいすけ)

小型科学衛星プロジェクト
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/sss/index.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※