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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第234号

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ISASメールマガジン   第234号       【 発行日− 09.03.17 】
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★こんにちは、山本です。

 3月もなかばになり、相模原も春めいてきました。去年は「ふきのとう」のときに気がついた建物わきの緑地に、もう花が咲いてしまって若いふきがたくさん顔を出しています。「ソメイヨシノ」も来週には咲きそうな気配です。

 今週は、JSPEC研究開発室/誘導・制御グループの成田伸一郎(なりた・しんいちろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「振動」を制するものは「衛星」を制す!
☆02:第1回宇宙科学奨励賞決定
☆03:2009年度「宇宙学校」共催団体の募集について
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:「振動」を制するものは「衛星」を制す!

 宇宙研の成田です。2010年に打上げを予定している金星探査機「PLANET-C」の姿勢制御系を担当しています。2009年も3月となり、いよいよ打ち上げまで後1年少しとなりました。前回のメールマガジンでは「PLANET-C」の姿勢制御系を構成する機器についてお話をしましたが、今日は将来の衛星で搭載が必要とされることを見据えて、開発を行っている機器の開発と実験についてお話したいと思います。
(*メールマガジン156号:金星探査機「PLANET-C」の姿勢を正せ! 参照)

▽回転円盤「ホイール」

 姿勢制御系の機器は、大きく三つに分類することが出来ます。一つ目は位置や姿勢を知る「センサ」、二つ目にセンサからの情報を元に判断・計算を行なう「コンピュータ」、そして最後に自分の姿勢を動かす「アクチュエータ」です。今日はアクチュエータの一つ、ぐるぐる回る回転円盤の「ホイール」開発についてお話をします。「ホイール」と聞くと、真っ先に思い浮かぶのは車のタイヤでしょう。まさに車のタイヤはぐるぐる回っていますね。「ホイール」は衛星の内側に取り付けられているので、衛星の完成後は車のタイヤのように直接見ることは出来ませんが、衛星はこの「ホイール」の回転速度を変更することで、衛星は宇宙空間で自分の姿勢を自由に変えることが出来ます。

▽ボールで支える「玉軸受」

 この「ホイール」ですが、ぐるぐる回る回転部分と、これを支える軸受部分に分かれます。多くの人工衛星では、回転部分を支えるために複数のボールを使用している「玉軸受」が用いられています。そのボールで支える形状から「ボールベアリング」とも呼ばれます。回転部分と軸受部分は潤滑剤等を用いてなるべく滑らかに回転するようにしているのですが、それでもどうしても接触するので摩擦が発生します。この摩擦が存在することにより、だんだんと回転を支える軸受部分がすり減ってしまうので、「ホイール」を自由に回転させることが出来なくなってしまいます。「ホイール」が回転出来なくなることは衛星にとって一大事で、自分の姿勢が自由に変えられなくなってしまうことにつながります。

▽接触しないで回転させるには?

 それでは、回転部分と軸受部分を接触させないようにすれば「ホイール」はもっと長く使うことが出来るのではないか、と思った方もいるのではないでしょうか? まさにその通りで、回転部分を支える軸受を浮かせてしまえば「ホイール」は半永久的に使えます。そこで回転部分を浮かせるために登場する軸受が、電磁石を用いた「磁気軸受」です。「磁気軸受」は電磁石の他に、回転部分を安定して支えるために変移量を計測するための変移センサと、この情報に基づいて回転軸を制御する電気回路が必要です。そのため、「玉軸受」に比べると構成が複雑になってしまう所が今のところの難点なのですが、JAXAでは半永久的に使えるという利点を生かすべく、この「磁気軸受」を利用した「磁気軸受ホイール」を現在開発中です。

▽衛星に悪さをする「振動」

 さて、ここで少し今回のタイトルの一部である「振動」について考えてみましょう。例えば「ホイール」の回転部分ですが、どうしても一様な質量の回転部分とはならず、不均一性が残ってしまうので、「ホイール」自身が回転することによって微小な「振動」が発生してしまいます。その他にも衛星には多くの機器が搭載されていて、「振動」を発生するものもあります。例えば赤外線によって天体を観測する衛星には、望遠鏡自体が観測を邪魔しないようにキンキンに冷やす必要があります。そのために圧縮式の「冷凍機」を搭載するのですが、こうした「冷凍機」の圧縮動作によって振動が発生します。このような「振動」は衛星全体に伝わって、せっかく制御した衛星の姿勢や観測のための望遠鏡を揺らしてしまいます。そこで、こうした「振動」をどのようにして抑えるか、ということが観測を達成するためにとても重要になります。

▽「軸受」を動かして「振動」を制する

 さて、ここで再び「磁気軸受ホイール」の登場ですが、回転部分を接触せず安定に支えれば長く使える、ということを応用するとどうなるでしょうか。ぐるぐる回るアクチュエータの機能を持ったままで、先ほど述べたような衛星に伝わる「振動」を打ち消すように「磁気軸受」を制御してあげれば「振動」を抑えることが出来そうですね。これに対して、「玉軸受」は回転部分を支えるボール部分が接触しているので、このような「振動」を抑える動作が出来ません。先ほど、「磁気軸受ホイール」は回転部分を安定して支えるために構成が複雑になってしまうとご紹介しましたが、逆にこうした構成を持っているので、長寿命に加えて「ホイール」自身や他の機器が発生して衛星に悪さをする「振動」を抑えることが出来る!という利点があります。

▽「振動」を抑えるために「振動」を知る

 この「振動」を抑えることが出来るのか、ということを確認するために年明けから実験を行ってきました。実験に必要な機材として「磁気軸受ホイール」はもちろんのこと、衛星のボディを模擬した構造パネル板に、衛星に悪さをする「振動」をわざと発生させるための「加振機」、そしてその「振動」を計測して「磁気軸受ホイール」に教えるための「加速度センサ」が必要になります。さて、それだけの機材がそろえば「振動」が抑えられるのか、というとそう簡単ではありません。「振動」がどのように伝わっているのか、またこのような「振動」を抑えるためには「磁気軸受ホイール」をどのように動かせば良いのか、ということを詳細に調べる必要があります。そのために「加振機」と「加速度センサ」を構造パネル板のさまざまな所に取り付け、「振動」がどのように伝わっているのか、ということをまず調べました。この結果から、「振動」を抑えるための「磁気軸受ホイール」の動作を決定し、初めて「振動」を抑えることが出来るようになります。

▽「振動」を抑える戦いは根競べ

 「振動」の伝わり方は機器や衛星の形状によっても異なるため、根気よく伝わり方を調べることが「振動」を抑えることにつながります。千厘の道も一歩から、「磁気軸受ホイール」がアクチュエータとしての機能と共に、さまざまな「振動」を抑さえることが出来るようにこれからも力を尽くして行きたいと思います。

(成田伸一郎、なりた・しんいちろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※