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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第156号

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ISASメールマガジン   第156号       【 発行日− 07.09.11 】
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★こんにちは、山本です。

 9月13日(木)に「かぐや(SELENE)」の打上げが予定されています。種子島宇宙センターからの打上げライブ中継を、相模原キャンパスの 一般見学の方にも開放します。

 ライブ中継は午前9時30分からで、打上げ予定時刻は午前10時35分47秒です。「かぐや」に携わる研究者への質問も受け付ける予定です。 展示ホールにも「かぐや」の特設コーナーが設置されます。

 8月から始まった相模原キャンパス一般見学者は、1ヶ月で1500名を超えました。特に8月最後の日曜日の26日には150名の方がいらっしゃ いました。連日、展示ホールの一角で『何でも説明員』として活躍していた阪本広報委員長にメルマガの原稿をお願いしています。どんな様子だったの か乞うご期待!

 今週は、技術開発部の成田伸一郎(なりた・しんいちろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:金星探査機「PLANET-C」の姿勢を正せ!
☆02:「あかり」が見た近傍銀河の星生成領域と宇宙の果て
☆03:「すざく」衛星論文が最近の宇宙科学分野で最も引用された論文に
☆04:「かぐや(SELENE)」打上げの模様を生中継
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★01:金星探査機「PLANET-C」の姿勢を正せ!

 宇宙研の成田です。2010年に打上げを予定している金星探査機「PLANET-C」の姿勢制御系を担当しています。といってもなかなかピンと は来ない方もいらっしゃると思うので、まずは「姿勢制御」について簡単に説明したいと思います。


▽金星を狙う姿勢制御
 「PLANET-C」は、金星大気の観測や電波科学研究などさまざまな科学観測を目的とした無人探査機です。これらの観測を達成するために「PLANET-C」にはたくさんの観測機器が搭載されています。例えば金星を撮影するための特殊なカメラ・・・

 このカメラで地表付近から高層までのいろいろな高度における風(=大気の運動)を観測し、金星の気象現象を解明します。しかし、カメラを金星の方向へ正しく向けることができなかったらどうなるでしょうか?せっかくはるばる金星近くまでカメラを持って来たのに、なんの写真も撮ることができません。海外旅行の観光地で名所・名物を目前にしながら、シャッターを押せない状況を想像して下さい。それではせっかく旅行の楽しみも半減してしまうでしょう・・・

 それは遠く金星まで旅をしてきた「PLANET-C」でも同じことです。カメラを金星の方向へ確実に向ける・・・そのために必要となるのが姿勢制御です。


▽姿勢制御系の機器たち
 姿勢制御系の機器は、大きく三つに分類することが出来ます。一つ目は位置や姿勢を知るセンサ、二つ目にセンサからの情報を元に判断・計算を行な うコンピュータ、そして最後に自分の姿勢を動かすアクチュエータです。
センサには恒星を見て自分の向きを知る光学センサや自分がどれだけ動いたかを知る慣性センサ、アクチュエータにはぐるぐる回る「はずみ車」のようなリアクションホイールといった機器があります。「PLANET-C」はこれらの機器を使って、宇宙空間で自分の姿勢を自由に変えることが出来ます。


▽星を追いかけるスタートラッカ
 恒星を見て自分の向きを知る光学センサの中に、スタートラッカというセンサがあります。どんなセンサかというと名前の通り、星からの光を追いかけるセンサです。どんな星が見えているかということを知って、自分は今どちらを向いているか理解する「PLANET-C」の姿勢を知るセンサです。

 ところが、宇宙では太陽からの光や、地球からの太陽反射光など、色々な光があるので星を追いかけるといってもスタートラッカは邪魔をされてしま います。そこでそうした邪魔な光を防ぐためにバッフルといって帽子の役割を果たすカバーをスタートラッカに取り付けます。

 人工衛星の写真を見たときに。にょっきと飛び出している円錐状のものがバッフルです。かなり目立って飛び出しているので、みなさん「ああ、そう いえば見たことあるなぁ」と想像して頂けるかもしれません。


▽スタートラッカVSアンテナ
 「PLANET-C」は地球から命令を受けたり、地球へデータを送ったりする通信を目的としてアンテナを持っています。このアンテナが地球を見て電波をやり取りすることができないと通信が出来ません。ところが、ここで困ったことが起こりました。というのも、スタートラッカのバッフルがにょっきと飛び出しすぎて、電波を反射してしまいアンテナを邪魔してしまう・・・という可能性が出てきたのです。

 バッフルがアンテナをどれくらいさえぎってしまうのか、解析や試験を行なって知る必要が出てきました。試験のためにバッフルを1/2の大きさで模型を制作し、アンテナと一緒に「PLANET-C」模型の表面に取り付け様々な角度から電波をはかることで、アンテナをどれくらい邪魔しているかを測る試験を行いました。いわばスタートラッカVSアンテナの決戦という所でしょうか。。もちろんサッカーの決戦とは違って、相手を負かせば良いというものではなく、スタートラッカもアンテナもどちらも「PLANET-C」には必要な機器なので、試験の結果を元にどうしたら良いか対応を考えることになります。


▽勝負はアンテナの勝ち・・・
 結果はある範囲の角度で、バッフルがアンテナを少し邪魔しているということが分かりました。そこで、電波の反射をさえぎる板を取り付け、邪魔しないようにする、という対策をしてみたのですがなかなか上手くいきません。とはいえ、アンテナも我慢しようと思えば我慢できるくらい・・・という内容だったので、幸い邪魔にならないようにアンテナの電波のパターンを調整してもらうことが出来ました。その後、スタートラッカを取り付けた「PLANET-C」の模型は一般公開のときに電波無音響室という試験を行った部屋で展示したので、その時にご覧になった方もいらっしゃるかと思います。


▽いよいよフライトモデルの製作!
 「PLANET-C」は金星に到達するまでに、地球を周回する、金星へ移動する、金星を周回する・・・などなど、その時々に応じて観測を行なう、 地球と通信を行なう運用を考えています。

 スタートラッカ以外にも、前述のようにたくさんのセンサ、コンピュータ、アクチュエータの搭載を予定していています。姿勢制御系のこれらの機器は もちろん、それ以外のたくさんの機器が力をあわせて、初めて金星の写真を撮影することが出来ます。

 今年度には、FM(フライトモデル)といって実際宇宙に行く「PLANET-C」の製作がスタートします。合わせて、姿勢制御系の準備・試験も大忙しです。姿勢制御系の各機器がしっかりと役割を果たし、価値のある金星の写真を撮影できるようにこれからも力を尽くしていきたいと思います。

(成田伸一郎、なりた・しんいちろう)

詳しくは
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/planet-c/index.shtml

PLANET-Cプロジェクトのサイト
新しいウィンドウが開きます http://www.stp.isas.jaxa.jp/venus/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※