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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第207号

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ISASメールマガジン   第207号       【 発行日− 08.09.02 】
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★こんにちは、山本です。

 夏休み中 賑わった一般見学ですが、9月になった途端に少なくなりました。本館のロビーも何か閑散としています。

 今週は、観測ロケットS-520-24号機の実験主任、宇宙環境利用科学研究系の稲富裕光(いなとみ・ゆうこう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:観測ロケットS-520-24号機の打上げ成功
☆02:大樹航空宇宙実験場での大気球放球実験初号機成功!
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:観測ロケットS-520-24号機の打上げ成功

 今回の観測ロケット実験では、S-520-24号機ロケットの弾道飛行で得られる数分間の低重力環境を利用して対流のない環境での結晶成長の過程をリアルタイムで調べることを目的としました。そのため、以下の2つの実験実施を目指しました。

  • (1)最先端材料などに使われるファセット結晶(平らな面で囲まれた結晶)の成長過程のその場観察(FCT):
     結晶の形とその周りの融液の温度分布が変化していく画像をレーザー干渉法により得ます。試料は高純度のサリチル酸フェニル(通称:ザロール、融点は約42℃)であり、その結晶、融液が共に透明であるためにファセット結晶成長研究ではモデル結晶として多用されている物質です。主な搭載装置は共通光路型顕微干渉計および結晶成長制御・温度測定装置です。
  • (2)新しいダイヤモンド合成法(グラファイト通電加熱法)に関する基礎実験(DIA):
     反応ガス中でグラファイトを通電加熱してダイヤモンドが合成される過程を、ガスの成分変化に注目して分光法により計測します。主な搭載装置は通電加熱式ダイヤモンド合成装置および超小型分光器です。
 打ち上げは2008年7月30日を目標としました。

 噛合せ試験は6月23日から7月7日まで相模原キャンパスにおいて行なわれました。6月20日の構造機能試験棟への搬入に始まり、搭載装置の机上噛合せおよびロケット頭胴部への組み込み、動作チェックを経た後に、飛翔体環境試験棟にて頭胴部のダイナミックバランス、振動・衝撃試験が進められました。なお、一連の試験途中でPI搭載装置に不具合が発生しましたが関係各位の尽力により解決され、スケジュール通り7月7日に噛合せ試験が終了し、翌日に頭胴部が木製コンテナに納められました。その後、頭胴 部、モータ、尾翼部等のフライト品、そして地上支援装置が内之浦まで運ばれました。

 内之浦では実験主任という柄にも無い大役を仰せつかりました。内之浦での作業は7月23日の開梱に始まり、各部分毎の組み立て、導通・動作チェックの後、全段結合、全機導通チェック、電波テストを経て7月29日に報道公開となりました。報道公開ではランチャーに載ったロケット機体の見学と記者会見があり、特に記者会見における質問の大半は今回の実験結果がどのように社会に還元されるのかというものでしたが、中にはそもそも結晶成長とは何かという根源的な質問もあり、学会での質疑応答とは違う体験をしました。

 私自身はFCT実験のPIでしたが、どうにもDIA実験が気掛かりでなりませんでしたので、PI作業の場面ではFCT実験:DIA実験=4:6(結果として3:7だったかも知れない)という気持ちで臨みました。

(*注:“PI”というのはPrincipal Investigator(主研究者)の略で、どのような科学観測をするかを検討することから始まって、実際の機器の開発、地上系システムの開発、データの校正・処理の実施、解析研究といった機器に関わるすべてのことについて責任を負う立場の人を指します。)

 DIA実験チームのメンバーは帝京科学大学が中心であり、その中でも同大学学生3名の奮闘は周囲の注目を浴びるものでした。学生諸君の研究経験が浅いのは自他共に認めていたことではありますが、今回のように自分たちの装置を飛翔体に組み込んで微小重力実験を無事成功させるとなると彼らが受ける精神的なプレッシャーはどれ程のものであったか。打ち上げ前の動作確認で一部のPI搭載機器からのテレメータデータに異常が見られたのでそのトラブルシューティングに時間を割きましたが、その際にも今期は打ち上げられないかも知れないという重圧に耐えて、彼らはロケット班をはじめとする多くのスタッフの助言・指導の下で作業を続けていました。しかし打ち上げ前日にもなると、学生それぞれの個性がうまく噛み合って作業は息の合ったものとなり安堵しました。

 8月2日、ついにフライトオペレーションを迎えました。PI班メンバーはコントロールセンター、テレメータセンター、そして第2リードと呼ばれるランチャー近くの半地下の部屋に別れて作業を行いました。私はコントロールセンターにいましたが、X=0(打上げ)のカウントと共に轟音が上がり、ランチャー地点から何かが飛び出す様子がほんの一瞬窓から見え、噴煙のみが残されていました。これが私にとってのS-520ロケットの打ち上げの瞬間でした。その後は消感するまで我ながら不思議と落ち着いてロケットの飛行経路モニター画面を見つめ、またテレメータデータの確認作業を続けました。ロケット実験が成功裏に終了したと実感したのは、スタッフの拍手が沸き起こり祝福の握手をされた時でした。

 相模原での準備から内之浦での打上げに至る一連の作業では実験班のみならず関係各位が一丸となって、泥臭いこと、ボランティア的な作業をしてでも何とかして実験を成功させたいという雰囲気に包まれており、これがISAS伝統のロケット実験なのだなぁ、と実感しました。旧ISASがJAXAの本部の1つと位置付けられて以来ISAS内でも様々な局面で統合の波が押し寄せてきていますが、それが組織全体での普遍性を追求するのならその一方で各本部の個性という多様性をも追及するといった両者のバランスが今後も必要であることを今回の観測ロケット実験を通して改めて認識した次第です。

 最後に、本ロケット実験の成功にあたり関係各位に深く感謝します。

(稲富裕光、いなとみ・ゆうこう)

詳しくは、
http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2008/0802.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※