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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第168号

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ISASメールマガジン   第168号       【 発行日− 07.12.04 】
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★こんにちは、山本です。

 師走の相模原は、正門前の「カツラ」の並木もほとんどが落葉して冬の装いです。今週は大きなシンポジウムが開かれていて、海外からの参加者も多く、いつも以上に外国の方がISASにあふれています。

 今週は、システム開発部飛翔体システム開発グループの加藤洋一(かとう・よういち)さんです。先月は、ブラジルまで気球実験に行っていました。

── INDEX──────────────────────────────
★01:気球おにいさんのひとこと
☆02:「かぐや」の地形カメラによる立体視動画を公開
☆03:日本天文学会欧文研究報告「ひので」特集号に43編の論文!
☆04:宇宙学校・しおがま【ふれあいエスプ塩竈】
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★01:気球おにいさんのひとこと

 私は宇宙の職場で気球おにいさんをしています、といっても何のことだかわからないですね。宇宙と気球ってどんな関係があるの?と、不思議に思う人もいるかもしれません。自分も今の担当に就く前は、気球というものは人の乗れる籠を吊り下げた乗り物で、風の向くまま、ふわりふわりと旅をするものというイメージが強くありましたので、宇宙との関係を想像したことは余りありませんでした。

 人が旅する乗り物ではないとすると、宇宙に関わる気球ってどんなものでしょう。気球だから宇宙へ行けるはずはないし・・そう、残念ながら宇宙には行けません、でも宇宙に少し(かなり?)近いところには行けるのです。

 ここでの気球は、50km以上の高度まで揚がっていけるものです。そこは空気が薄く、地上よりずっと宇宙空間に近い環境にあります。最近では、お金があれば、ロケットに乗って宇宙旅行もできる世の中になってきました。自分も一度は宇宙に行ってみたいとは思いますが、お金がないからダメです。世の中には頭のいい人がいて、ロケットでなくても宇宙に近づける手段を考えついたのですね。

 前口上が長くなってしまいましたが(汗)、私たちはこの気球を使って、宇宙科学の分野での科学観測、工学実験をしています。例えば、X線や赤外線による宇宙の観測、宇宙から降り注ぐ電子などの宇宙線の測定、人工衛星搭載用の観測器の実験、宇宙機の姿勢制御実験、高高度からの落下を利用した微小重力実験、将来の衛星推進機構の実験などなど。

 日本での気球実験は50年ほど前から行なわれています。国内ではいくつかの場所を使って実験をしてきましたが、今年までの36年間は岩手県の大船渡市三陸町で実験をしてきました。気球の大きさが増してきたことなどから、来年からは北海道の大樹町に場所を移して実験を行なう予定としています。また、外国との共同実験もあり、最近ではブラジル国立宇宙研究所での実験を行なっています。

 話しがとびますが、少し、気球の実験作業について触れてみます。
気球実験の大まかな流れは、
(1)観測器の準備、
(2)気球の準備、
(3)放球、
(4)実験、
(5)回収
となっています。・・大まかすぎて、よくご存知の方には叱られそうです。(汗)

 全部大変な作業なので、大変さの順番はつけづらいのですが、次のような作業をしていきます。

(1)観測器の準備
色々な研究テーマをもった研究者さんと装置の製作や準備を進めるのですが、うまくいったりいかなかったり。殊に、新しいことへのチャレンジは大変です!。でも結果がでるとやっぱり楽しいですね。

(2)気球の準備
実験の目的、打ち上げる観測装置の大きさ等によって、使う気球にはいろいろな種類があります。先人の苦労の賜物で、それぞれに対応した種々の気球があります。実験を重ねていくうちに改良することもありますし、新しいテーマに向けた気球の開発もしています。大きなものでは全部膨らませた状態で、直径が100mを超えるものもあります。

(3)放球
気球には空気より軽いヘリウムガスを入れて飛ばします。気球の本体はより軽くするため、すごく薄い膜で作られています。そのため、気球の取り扱いには細心の注意が必要です。朝早くから作業をする時もありますので、朝に弱い自分にとっては大変つらいことですが、慎重に頑張っています。無事に放球したあとは、ホット一息。

(4)実験
放球した後、気球は目標高度まで偏西風に乗りながら太平洋上を揚がっていきます。気球は毎分3m位の速度で上昇し、実験に適した高度に到達したら、その高さを保って実験を行ないます。

(5)回収
気球と実験装置は、実験終了後に回収します。
気球は、ある高度を超えると東からの風に乗って戻ってきますが、戻り風が弱かったり、風向きが悪いと、海での回収作業は大変です。・・遠くまで行ってしまうと、船で何時間もかかるのです。回収船に何回か乗りましたが、陸も見えない外洋に出ますので海の広さを実感します。余談ですが、今年の春に、水族館以外でマンボウに会えたのは楽しい思い出です。あと、回収船には漁船も使うことがありますので、帰ってくるときに、船長さんがイカを釣って下さったり。後で頂きましたがおいしかったです、ごちそうさまでした。<(_ _)>

 というように作業を行ないますが、実験装置を回収した後は、実験データの解析、評価を行います。また、何回か行なう実験については、次回にむけての準備を進めます。

 本当はここに書いた以上にもっと奥深いものなのですが、なかなかうまく言い尽くせません。

 実験には、いろいろな人が携わっています。実験関係者だけではなく、地元の方にもたいへん多くの協力をいただいたり、関係機関との調整も必要です。みなさんの力がひとつになって、ほんと苦労することも多いけれど、気球実験の成功に結びつくのだと思っています。

 今、新しい開発テーマを考えているのですが、気球のおにいさんとしては、いつか人が乗って実験が出来るような気球がつくれればと、おバカな妄想も抱いています。

(加藤洋一、かとう・よういち)

大気球のページ
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/ball/index.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※