宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2007年 > 第147号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第147号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第147号       【 発行日− 07.07.10 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★こんにちは、山本です。
 7月7日七夕の日にISASのサイトをリニューアルしました。出来栄えはいかがでしょうか?
読者の皆さんの感想をお待ちしています。
 今週は、システム開発部の川原康介(かわはら・こうすけ)さんです。
── INDEX──────────────────────────────
★01:衛星搭載用アンテナのお話
☆02:宇宙学校・うえだ
───────────────────────────────────
★01:衛星搭載用アンテナのお話

 衛星の絵を描きなさい。
読者の皆さんはどのような絵を描くでしょうか?
関心の度合いで、その姿は大きく異なると思いますが、ほとんどの人が、四角い箱に長方形の板を2枚付けて、仕上げに大きなおわんをちょこんと載せた姿を想像したのではないでしょうか?

 もちろん、四角い箱は衛星本体です。その中には衛星のシステムを構成する数々の装置が配置されております。四角い2枚の板は、太陽電池パドル。
衛星の電源を供給するための大事な部分です。そして、太陽電池パドルに負けず劣らず自己主張をしているおわん状のものが、アンテナです。衛星と地球の間で、データのやり取りをする際に重要な役割を担っています。今回は、衛星や探査機に搭載されているアンテナについて紹介したいと思います。

 ラジオから携帯電話に至る全ての無線機器にはアンテナが付いています。
アンテナは、様々な情報を持った電磁波を空間に放出し、また、空間を伝搬して来る電磁波を吸収する役割を担っています。衛星にもアンテナが搭載されていて、無線によるデータの送信(テレメトリ)と受信(コマンド)のやり取りを行っています。

 このとき、アンテナはただ単に電磁波を空間に放出しているわけではなく、目的に応じて、任意の方向に強く電磁波を放出させています。このように、電磁波を特定の方向に偏りを持たせて放射させるアンテナを指向性アンテナと呼んでいます。指向性の強いアンテナは、特定の方向に強く電磁波を放出させることが出来るため、遠距離通信に適しています。街中で見かけるパラボラアンテナ等は、この種のアンテナです。一方、指向性の弱いアンテナ(無指向性アンテナ)は、全方位に満べんなく電波を放出する事を目的としているアンテナです。母体の姿勢に依らず通信を行うことが可能であることから、車載用GPS受信アンテナなどは、この種のアンテナを使用しています。

 衛星に搭載されるアンテナの場合はどうでしょう?通常は、高い通信速度で地球と通信を行いたいので、強い指向性を持ったアンテナが衛星に搭載されています。しかしそれだけでは、衛星の非常時にアンテナがそっぽを向いてしまうと、地球と全く通信が出来なくなってしまいます。そこで、衛星がいかなる姿勢をとっていても、地球と通信がとれるようなアンテナも同時に必要となります。この要求に応えてくれるのが、無指向性のアンテナ(指向性が弱いアンテナ)です。ただ、残念なことに強い指向性と弱い指向性という相反する特性を、1つのアンテナで実現する事は一般に出来ません。そのため、衛星には複数のアンテナが搭載されています。これらのアンテナは指向性の違いにより、大きく3種類のアンテナに区分されています。
1.高利得アンテナ(強い指向性を持つアンテナ)
2.中利得アンテナ(1と3のほぼ中間)
3.低利特アンテナ(弱い指向性のアンテナ)

衛星の目的等により、搭載されるアンテナの組合せは様々ですが、金星探査機(PLANET-C)には、3種類全てのアンテナが搭載される予定であり、水星磁気圏探査機(MMO)には、低利得アンテナを除く2種類のアンテナが搭載される予定です。

 実はここで例を挙げたPLANET-CやMMOに搭載される高利得アンテナには、従来のおわん型のアンテナではなく、平面アンテナが搭載される予定になっています。ここでは、詳細は省きますが、この平面アンテナは、パラボラアンテナよりも効率が良く、同じ性能を有するアンテナを製作する場合でも、パラボラアンテナよりもずっと小さなアンテナでよいため、衛星の軽量化や搭載性の観点から非常に優れています。また、パラボラアンテナと違って焦点を持たないため、光を集光しません。そのため、(*)内惑星探査機のように太陽からの熱入力の厳しいミッションに適しています。

 このように、衛星搭載用のアンテナも、その姿形を変えながら進化をしています。平面アンテナがパラボラアンテナに取って代わる頃には、皆さんの描く衛星の絵からアンテナの姿がなくなってしまうかもしれませんね。

(*)内惑星探査機(inferior planet):
「太陽系の惑星のうち、地球よりも太陽に近い軌道をめぐる惑星(具体的には、水星と金星)を探査する衛星」

(川原康介、かわはら・こうすけ)

金星探査機(PLANET-C)のページ
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/planet-c/index.shtml

水星磁気圏探査機(MMO)のページ
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/mmo/index.shtml

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※