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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第103号

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ISASメールマガジン   第103号       【 発行日− 06.08.29 】
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★こんにちは、山本です。

 今週末からM-V-7号機(SOLAR-B衛星)のフライトオペレーションが始まります。2組(第2組立オペレーション)からやっと帰ってきた 出張組も長くないリフレッシュを終えて、また内之浦へと出発していきます。

 先週は、秋の大気球実験組も三陸へ出発し、同じ所属なのに1ヶ月半程会わない人たちもいるそうです。

 前号で、私の夏風邪のことを書きましたら、読者の方からお見舞いメールをいただきました。何とか咳も殆ど出なくなり、気分的には『全快』に近い状態です。

 今週は、宇宙探査工学研究系の久保田 孝(くぼた・たかし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ロボティクスへの期待
☆02:赤外線天文衛星「あかり」がとらえた星の誕生と死
☆03:M-V-7号機第2組立オペレーション終了
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★01:ロボティクスへの期待

 宇宙探査ミッションでこれまでにもっとも印象的な出来事は、なんといってもアポロ計画で人類が月面に降り立ったことでしょう。 また、1997年にソジャーナという移動ロボットが火星表面の移動探査に成功したのも記憶に新しいところです。2004年1月には2台のロボットが火星表面の移動探査を行い、いまなお活動を続けています。そのほかにも探査機が太陽系のさまざまな惑星に到達し、鮮明な画像を地球に送りました。

 ご存知のように、2005年11月に探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワにタッチダウンを行い、サンプル採取を試みました。「はやぶさ」が撮像した小惑星イトカワの画像は、大きなインパクトを与えました。惑星探査が多くの人の関心を集めるのは、見たこともない光景が展開されるからであり、「知らないことを知りたい」という人間本来の欲求によるものと思います。

 現在もサンプルリターンを含むさまざまなミッションが検討されています。惑星の衛星や小惑星など小天体にも接近することが可能となり、探査機技術の進歩は目をみはるものがあります。また、月面基地構想や火星有人探査も検討され、人類のフロンティアの拡大がいままさに行われようとしています。

 このように21世紀は、人類が月や惑星など太陽系にまったく新しい文明圏を創り出す時代になると期待されています。その実現のキーとなるテクノロジーの1つが宇宙ロボティクスであると私は考えます。ところで、「宇宙ロボティクス」というと何をイメージするでしょうか?

 宇宙ロボティクスについて話をする前にロボティクスについて述べたいと思います。ロボティクスに近い言葉でロボットがあります。ロボットとロボティクスが同じ意味で使われていることもありますが、ロボットというと、例えば、掃除ロボットや二足歩行ロボットなどを思い浮かべるでしょう。一方、ロボティクスは、ロボット技術あるいはロボット工学とも言います。ロボットおよびそれに関連する技術あるいはその学問を指しています。

 ロボティクスの定義はさまざまあり、研究者ごとに違うといっていいでしょう。これはロボティクスがいまなお進化しているからだと思います。私の定義は、実世界とのインタラクションを実現する技術で、実世界の理解あるいは実世界へ働きかけを行うものと考えています。ロボットがロボットそのものを指すのに対して、ロボティクスはロボットおよびその関連技術、たとえば、ロボットのセンサや環境認識、ロボットの操縦操作技術、自動化自律化技術、移動技術などなどが含まれます。違うよと言う方がいらっしゃると思いますが、これに関しては別の機会に議論させてください。

 さて、宇宙ロボティクスに話を戻しますと、地上のロボティクス(ロボット)と宇宙ロボティクス(ロボット)との違いは何でしょう。実は大きな違いはないと思っています。地上にあるロボティクスを宇宙仕様化したものが宇宙ロボティクスであると考えます。宇宙仕様化といっても、真空、温度、耐放射線など宇宙環境に適応するという意味だけではなく、宇宙ミッションを達成することや信頼性・小型軽量化なども含みます。

 「宇宙ロボット」というと何を思い浮かべるでしょうか。映画やSFの世界では、さまざまなロボットが宇宙において活躍しています。一方実際に活躍したロボットとして、前述のソジャーナが有名です。しかしながら宇宙ロボットの歴史は実は意外と古いのです。

 今から36年昔の1970年には、旧ソ連が無人移動探査ロボット「ルノホート」を月に送り込み、月面の探査を行っています。1981年にはスペースシャトル用に多関節型マニピュレータが開発され、宇宙飛行士の作業支援として重要な役割を果たしています。1996年には日本人宇宙飛行士・若田光一氏がマニピュレータを操縦し、日本の人工衛星SFU(Space Flyer Unit)の回収に成功しました。日本でもETS-VII衛星によるランデブドッキングとロボット実験を行いました。

 宇宙ロボットあるいはロボティクスには、さまざまなものが期待されています。例を挙げますと、宇宙ステーションでの運搬・組立作業、宇宙飛行士の活動支援、太陽発電衛星や望遠鏡などの大型構造物の組み立て、故障衛星のレスキュー、月惑星探査、月面基地建設などです。

 JAXAでは、今年の4月にロボット推進チームを発足し、宇宙ロボティクス研究開発の検討を進めています。ロボット技術を宇宙ミッションに生かして、新しい宇宙を拓いていきたいと考えています。

(久保田孝、くぼた・たかし)

 ISASニュース(宇宙・夢・人 No.275)
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.275/interview.html

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※