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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第40号

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ISASメールマガジン   第040号        【 発行日− 05.06.07 】
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★ こんにちは、山本です。
 6月に入ってそろそろ梅雨入りでしょうか、ISASの紫陽花が咲き出しました。ASTRO-EIIの打上げが変更になり、内之浦出張期間が連続で1ヶ月を超える人もいるようです。相模原居残り組としては、出張中の体調管理に気をつけて無事打上げが成功するよう祈っています。
 さて今週は、宇宙構造・材料工学研究系の横田力男(よこた・りきお)さん です。


―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:ソーラーセイル膜材・ポリイミド
☆02:ASTRO-EII / M-V-6の打上げ予定日を7月6日からに変更
☆03:宇宙研一般公開(7/23)
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★01:ソーラーセイル膜材・ポリイミド

 昨年8月、直径30cmの一段式観測ロケットS-310-34号機で鹿児島の内之浦から打ち上げられた直径約10mのソーラーセイルが水色の地球を背景に太陽の光を受けてキラッと光っている心が躍るような映像を記憶されている方も多いと思います。ポリイミドはこのソーラーセイルの膜材に使われたプラスチック(一種の高分子)フィルムです。
太陽の光を大きな帆にいっぱいに受け、推進力とし宇宙を航行するソーラーセイル・スペースクラフトの帆表面温度は、120℃にもなると見積もられています。その上、宇宙にはいろいろな放射線や宇宙塵があるので、ソーラーセイル膜材には宇宙環境に長期間耐える高性能高分子(プラスチック)フィルムが必要になります。
みなさんが知っているスーパーの袋やゴミ袋、ペットボトル等のプラスチック材料は100℃を超えると軟らかくなり、また太陽光や宇宙放射線で一年も経たないうちにボロボロになってしまうので使用できません。沢山の高分子フィルムの中で、この要求に一番適している膜として「ポリイミド」が選ばれています。
このホームページを時々見る人なら、ポリイミドという名は聞いたことがなくても、「人工衛星の表面に使われている金色の膜」といえば、ああーあれか!と思い当たる、あの「膜」の高分子材料のことです。ソーラーセイルには厚さ百分の一ミリメートルより薄いポリイミドの膜に、これまた千分の一ミリメートル以下の厚さに金属アルミニウムを蒸着した膜を張り合わせて使います。実機のソーラーセイル・スペースクラフトは中心部分にはポリイミド/太陽電池薄膜を用いたソーラ電力・ハイブリットセイルとなる予定です。

 ポリイミドは、宇宙ではアポロ月着陸船を包んだ金色の膜として有名になりました。しかし地上ではパソコンや携帯電話の心臓部のチップ、折り曲がる部分のプリント配線多層膜などのマイクロエレクトロニクス分野をはじめ多くの産業分野で欠くことのできない先端高分子材料となっています。物質にノーベル賞があれば、まっ先にもらえそうな物質です。

 300℃の空気中、数千時間も使用可能なポリイミドの優れた性質の秘密は、化学構造が熱にも放射線にも強い、いわゆる亀の甲の芳香環イミド環から構成されていることにあります。ポリイミドでなくても、このような化学構造を入れた高分子を作れば同じような性質のものは作れます。しかし亀の甲からなる多くの高分子は、高温にしても軟化しないし溶かす薬品もありませんので粉末にしかなりません。ところがポリイミドだけは、中間段階で溶剤によく溶ける安定なポリアミド酸となるために、簡単に優れたフィルムができる事にあります。しかし注意深い方は既にお気付きのように、ポリイミドもフィルムの他は、例え抜群の高温性能をもつポリバケツにでも成形することは不可能とされてきました。私たちの研究はこの常識を打ち破ることにあります。7月23日の公開にソーラーセイルの展示会場へおいで下さい。特別にお教えします。

(横田力男、よこた・りきお)

http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2004/0809_s31034.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※