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太陽帆船用の薄膜帆を宇宙で展開

 8月9日午後5時15分に、JAXA宇宙科学研究本部は、鹿児島県内之浦のロケット発射場から、小型のS-310ロケット(全長7m、重量700kg)を打ち上げ、宇宙空間で直径10mの薄膜の帆を拡げることに成功しました。今後は、この帆を飛躍的に大型化させる努力をつづけ、将来は木星以遠までも飛んで行けるような「宇宙ヨット」を完成させたいと考えています。

ソーラーセイルの起源と最近の状況

 ソーラーセイルとは、風を受けて海を走る帆船のように、宇宙空間で大きく拡げた巨大な薄膜で太陽光を反射して推力を得る推進方法で、推進薬が不要なため、惑星探査などの自由度を大きく拡げることが期待されています。
 宇宙船の推進力を得る方法としてソーラーセイルを使うアイディアは、すでに1919年、ロシアのフリードリッヒ・ツァンダーやコンスタンチン・ツィオルコフスキーによって提出されていました。それをツァンダーが、1924年に書いた論文で理論的に発展させました。しかし微小な光圧から必要な推進力を得るために不可欠な極軽量かつ宇宙での苛酷な環境に耐える膜面素材がなかったので、ソーラーセイルはこれまで実現できなかったのです。
 ところが最近になって、素材及び製造技術の向上により、有望な膜面素材が開発され、諸外国でも実験を開始するところが現れて、ソーラーセイルが現実の課題としてクローズアップされる機運が出てきました。宇宙科学研究所でも、実用化をめざしてソーラーセイルのワーキンググループを立ち上げ、現在までに以下のような開発・研究を進めてきています。

  • 膜面素材の選択(厚さ7.5ミクロン(μm)のポリイミドフィルム)
  • 膜面の物性の取得と宇宙環境への耐性の確認実験
  • 膜面の製作・収納方法、展開機構の研究開発
  • 数値計算による展開挙動解析手法の開発
  • スピンテーブル試験、真空落下試験、気球実験。

S-310ロケットを使った展開実験

 ソーラーセイルで最も大切な課題の一つは、帆を大きく拡げる技術(展開技術)です。しかし地上における展開実験では、大気・重力の影響が大きいのでさまざまな点で限界があります。そこで観測ロケットを用い、その飛翔中の無重量かつ高真空の環境で、膜面構造物の展開実験を行うことにしたのです。それが今回の実験でした。
 今回の実験は以下の事柄を目的としていた。

  • 開機構を含めた膜面構造物の設計法及び加工・製作方法の取得
  • 提案した方式での展開実現性の確認
  • 観測された展開挙動の解析手法への反映

 S-310ロケットは、固体燃料の1段式ロケットです。全長約7.1m、直径0.31m、打上げ時の重量は約800kg。搭載重量や発射上下角によって変わりますが、最高到達高度は約200kmで、発射後約10分で海上に落下します。先端の頭胴部に実験・観測機器やテレメータ等の通信機器を搭載し、頭胴部先端のノーズコーンを飛翔中に開頭して、無重量・高真空を利用した各種理工学実験や高層大気の観測等を行い、そのデータを地上に伝送するわけです。S-310ロケットは、この実験が44機目の打上げで、内之浦から32機、ノルウェーのアンドーヤ・ロケット・レンジから2機、南極の昭和基地から10機、打ち上げています。

 今回の打上げは2004年8月9日17時15分。打上げの204秒後に最高高度172kmに到達し、約400秒後に内之浦の東南東海上に落下しました。この間、地上では実験が困難な直径10mの大型薄膜をロケット先端のノーズコーン内に収納して打ち上げ、弾道飛行中に空気力のほとんどない高度でノーズコーンを開き、展開方式が異なる2種類の大型薄膜のセイルを展開する実験を行いました。
 まず発射後100秒に高度122kmでクローバー型のセイル展開を開始し、その120秒後にクローバー型を分離、次いで発射後230秒に高度169kmで扇子型セイルの展開を開始した後、発射後約400秒に海上に落下しました。この間、展開途中や展開後の様子を、ロケットに搭載した角速度計や搭載カメラ等各種センサで計測・撮像し、2台のテレメータ送信機で計測データを地上へ伝送しました。JAXAでは、得られたデータを大型薄膜の展開挙動の解析に反映することで、解析手法の向上を図り、より大型の薄膜を開発するための資料として活用するつもりです。
 この30歳代の人々を中心とするミッションが、この日美しく開いたクローバー型セイルが象徴するように、文字通り大きく花開くことが期待されます。

S-310-34号機の打上げ

帆のそばに装着されたカメラが捉えたクローバ型薄膜の展開−1

帆のそばに装着されたカメラが捉えたクローバ型薄膜の展開−2

ロケットの尾翼のそばに装着されたカメラが捉えた展開後のクローバ型薄膜

ロケットの尾翼のそばに装着されたカメラが捉えたクローバ型薄膜の分離の様子

2004年8月9日

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