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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第11号

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ISASメールマガジン   第011号        【 発行日− 04.11.16】
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★ こんにちは、山本です。
 11月も半ばを過ぎ、ISASの周りもすっかり晩秋の装いです。木枯らし1号も吹いて冬も間近に迫ってきました。街角が、10月はハローウィン11月になったらすぐクリスマスの飾り付けになるのは、“何か変な感じ”です。
私が住んでいるのは“日本”ですよね?
 今週は、宇宙航行システム研究系の津田雄一(つだ・ゆういち)さんです。

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★01:宇宙で開いた太陽帆!〜S310ロケットによるソーラーセール展開実験〜
☆02:TV@ISAS
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★01:宇宙で開いた太陽帆!〜S310ロケットによるソーラーセール展開実験〜

 2004年8月9日、日本時間17時15分、内之浦のロケット発射場にて。
「打上げ10秒前、・・・3,2,1,0,1,2,3,・・・10秒・・・」
0秒のコールとともに打上げの轟音が聞こえてくるが、アナウンスは0秒を特別扱いせず、平然とカウントを続けていく。
「・・・60秒、ノーズコーン開頭」
「101秒、セール1次展開開始」
ロケットからリアルタイムに送信されてくる画像から、ソーラーセール展開実験が順調に進行していることが伝わってくる。
「126秒、2次展開開始」。。。
と同時に「おおー!」という歓声が上がる。テレメータの画面に、四つ葉のクローバー型をした直径10mの「太陽帆」がきれいに広がっている画像が映し出されたのだ。開発メンバー自身見たことのない、その巨大な膜の展開された姿は、太陽光を反射して輝き、美しくも壮観。1年間このソーラーセール展開装置を開発してきた仲間たちや、ロケット開発チームのメンバーと堅い握手。。。

 この日、JAXAの内之浦宇宙空間観測所から、S310と呼ばれる観測ロケットが打ち上げられました。34号機となる今回の打上げでは高度172kmに到達、その弾道飛行中の高真空・無重力状態を利用して、ソーラーセール膜(太陽帆)の展開実験が行われたのです。

 ソーラーセールとは、ちょうどヨットが風を帆に受けて進むように、宇宙空間で太陽の光を受けて推進する航行技術です。光に力がある(正確には、運動量を持っている)とはあまり馴染みのないことですが、宇宙空間では大きな帆いっぱいに光を受けることにより、推進力を作り出すことができるのです。このため重たい燃料を持って地球を出発する必要がなくなるのです。その原理自体は古いもので、20世紀初めころにロシアのツィオルコフスキーやツェンダーにより提案されたと言われていますが、まだこの原理を実用化したミッションはありません。

 私たちは、このソーラーセールを利用した、新しい太陽系探査ミッションを計画しています。今回のS310-34実験は、このミッションの根幹技術とも言える、セール展開・展張技術を獲得するためのものです。セールの性能の良さは、その面積と、軽さで決まります。また巨大な膜を打上げ時に如何に展開しやすいように折り畳んで収納するかも重要です。セール膜はとても軽くひらひらしているため、その展開挙動を計測するためには、空気があったり重力があったりしてはだめなのです。そのため、ロケットによる実験が必要でした。

 S310-34実験で使われた膜は厚さ7.5ミクロン(髪の毛の太さの約1/10)、最大直径10mで、これが打上げ時にはロケットの先端部の直径310mmの円筒部に収納されます。あまりの大きさゆえ、膜のパーツを折りながら接合していかなければならず、完全に展開された姿は、打上げまで誰も見たことがありませんでした。

今回の実験成功で、実際のソーラーセール探査機を実現する上での最初の難関をクリアしました。今後は、より現実に近い展開機構・展開シーケンスを開発する予定です。最終目標は、展開直径50m。膜の一部は、探査機に電力を供給するための太陽電池になります。

燃料の束縛を離れて太陽系を自由に往き来できる時代は、意外に間近まで迫っています。

S310-34フライト実験結果については、こちらをご覧ください。
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2004/0809_s31034.shtml

(津田雄一、つだ・ゆういち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※