- Home page
- No.296 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
+ ISAS事情
- 科学衛星秘話
- 宇宙の○人
- 東奔西走
- いも焼酎
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber

はやぶさ近況 イトカワの観測速報


「はやぶさ」

 「はやぶさ」は9月12日に小惑星イトカワの太陽側20kmのところに到達し,さらに9月30日にはホームポジション(イトカワから7km)に到達しました。搭載観測機器である,多波長撮像カメラ(AMICA),近赤外分光器,蛍光X線分光器,レーザー高度計(ライダー)はすべて正常に動作し,順調な観測が続いています。10月8日からは,イトカワに対する相対位置をいろいろ変えながら観測を続け,イトカワまでの最短距離約3km付近での近接観測も実施しています。今回は,これらの観測によって得られたイトカワについて書いてみることにします。

 自転周期12.1時間,自転軸下向き(地球とは反対向き,南極が上側)という結果は,打上げ前の地上観測による予想とほぼ一致していましたが,とらえられたイトカワの姿は驚くべきものでした。表紙の写真で見るように,何となく二つのブロックがくっついているような形をしており,大きさは540m×270m×210mです。これまでNASAの探査機によって撮像された10km以上の小惑星では,表面はレゴリスと呼ばれる厚い砂や礫(れき)の層で覆われており,のっぺりとした中にクレーターやところどころに岩が散見されるというものでした。ところが,今回のイトカワの表面はこれらとはまったく異なる多様な状態を見せており,表面は大きな岩だらけで,部分的にレゴリス地域が見られます。普通レゴリスは,隕石などが外部から高速度で衝突して放出した破片のうち,脱出速度以下の破片を再集積させてできると考えられています。イトカワのように非常に小さな天体では,衝突で出された細かい破片(一般的に細かい破片ほど高速度で放出される)を表面にとどめておくのが難しく,その結果,厚いレゴリス層が発達しにくく,表面の岩や石が露出しているのでしょう。ということで,今回初めてレゴリスで覆われてしまっていない天体の表面を見たことになります。

イトカワ上に見られる岩の大きいものには,50mぐらいのものがあります。過去の研究から,このようなものはイトカワの上に見られる最大級のクレーターからでも作ることができないと考えられます。きっと,この天体が母天体から衝突破壊で作り出されたときに,同時に出された破片の一部を降り積もらせているのでしょう。イトカワが受けた衝突の歴史を読み解くために,クレーターや岩石のサイズ分布の詳細な解析が進行中です。

 近赤外線分光器によっては,表面の近赤外線スペクトルが取られています。これによって表面を構成する鉱物の種類や,この小惑星がどのタイプの隕石と対応するのかが議論されています。特にAMICAのデータとも合わせて,宇宙風化現象による表面の光学特性の変化がどれくらい進行しているかは,小惑星タイプと隕石タイプの対応関係を明らかにする上で重要な検討課題となっています。画像やライダーのデータを用いてイトカワの数値形状のモデルが作られつつあり,それから体積が求められています。これと,イトカワ近傍での探査機の運動の解析から得られる質量推定値とを合わせて,密度が2.3±0.3g/cm3と見積もられました。地球上の普通の岩石と比べると,幾分小さめの値です。

 10月末には,観測データを持ち寄り検討して,小惑星試料採取のための候補地点として,岩だらけの中でも比較的平たんな2ヶ所が提案されました。いよいよ11月にはサンプル採取のために表面に向かって降下し,このミッションにとって最もエキサイティングな瞬間を迎えることとなります。

  着陸・試料採取候補点A。MUSES-Sea域は,イトカワ中央部に広がるレゴリス地域である。
  周辺には,露出した岩肌(1),岩塊(2),くぼみ(3),クレーター(4)も見られる。

(藤原 顕) 


Return

#
目次
#
科学衛星秘話
#
Home page

ISASニュース No.296 (無断転載不可)