もう一つの夢は,宇宙がどのように進化してきて,これからどうなっていくのか,宇宙を支配している基本的な物理法則を知ることです。この数年の観測により,宇宙の膨張が加速していることが分かりました。また,宇宙を構成しているエネルギーや物質のほとんどが,正体不明のダークエネルギーやダークマターであることも明らかになりました。その正体を解明することが,天文学の大きな課題の一つです。
ただし,宇宙の新しい姿の一面を見ることは,非常に鋭い切り口を持った独自の観測装置をつくれば,比較的小さな衛星でも可能です。要は知恵次第。もともと宇宙研の良いところは,鋭い目標を一つ立て,理学と工学の人が一緒になってアイデアを凝らし,規模は小さくてもこの部分は世界一だといえる観測装置や衛星をつくり,世界に負けない重要な観測を継続的に行ってきたことです。それが宇宙研の原点です。
当時のチームの規模は20人くらい。しかし最近では宇宙研の衛星もどんどん大きくなり,準備から衛星打上げまで約10年,チームも100人規模になってきました。若い人たちが自分たちの手でものをつくり,アイデアを試してみる機会が少なくなっています。比較的小さな規模のチームの中で試行錯誤し,失敗も経験することで,初めて計画全体を見る目が訓練されます。すると大きな計画に参加しても,いろいろなところに目が行き届くようになります。現在の宇宙研において,大きな衛星計画ももちろん大切ですが,アイデアを研ぎ澄ませて世界と勝負する,規模の小さな計画を大事に育てていくことも,本部長としての私の課題だと思っています。