No.296
2005.11

ISASニュース 2005.11 No.296

- Home page
- No.296 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
- ISAS事情
- 科学衛星秘話
- 宇宙の○人
+ 東奔西走
- いも焼酎
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber

駆け足でのサントリーニ島紀行 

宇宙環境利用科学研究系 稲 富 裕 光  


魅惑のサントリーニ島へ

 ヨーロッパ低重力学会(ELGRA)の隔年会議が9月21日〜23日にギリシャのサントリーニ島(ギリシャでの正式名はティラ)で開催され,参加した。往復路とも,途中スキポール空港(オランダ),アテネ空港(ギリシャ)を乗り継いで2泊5日(機中泊,空港泊含む)という時間的な無駄の多い旅程であったが,その苦労もさまつなことに思えてしまうほどに,サントリーニ島は魅惑的な観光地であった。

 白い壁と青い屋根の家々がエーゲ海を見下ろすサントリーニ島は,キクラデス諸島に属する大きな三日月形の島である。紀元前15世紀に島の中央にあった火山が噴火して山腹を吹き飛ばし,この火山の外縁が残って現在の島の外観となった。真偽のほどは定かではないが,プラトンによる古代アトランティス大陸沈没の伝説はこの島の爆発を指すとする仮説が,歴史学者から近年提案されている。そして,その火山の噴火の際に火山灰の下に埋もれたアクロティリ遺跡はポンペイ遺跡に例えられ,数多くの観光客を引き付けている。サントリーニ空港から島の中心であるフィラの街までは,タクシーで5分程度だ。

 学会開催会場であるP. M. ノミコス・コンファレンスセンターはフィラにあり,陸海空を一望できる断崖上に立っていた。学会のトピックスは生命科学,物理科学,材料科学,流体科学,生理学,生命工学であり,特に今回は日欧の流体セッションが設けられた。初日の基調講演では,微小重力科学分野で日本とヨーロッパの共同研究がいかに多く,また長年にわたって続けられてきたかが紹介された。日本からは20件を超す発表があり,私自身は大気球を利用した新しい微小重力実験に関する研究を報告した。


古代に思いを巡らし

 学会主催の遠足は,ワインの試飲,アクロティリ遺跡の見学,そしてイアの夕陽見物であった。サントリーニワインは火山性の土壌にはぐくまれた葡萄から作られ,フルーティーな味わいを持つことで知られている。アクロティリ遺跡では,ガイドがヨーロッパ地図を地面に広げながらユーモアを交えてギリシャ神話,アトランティス伝説,そして遺跡発掘に至る経緯を語ってくれたおかげで,興味深く古代に思いを巡らすことができた。ここで発掘された遺物の多くはアテネの考古学博物館に展示されているらしいが,いざ自分の足で遺跡に立つと,某映画の主人公のセリフではないけれど「歴史は現場で起こっているんだ!」という気になるから不思議なものである。

 フィラの街にはレストランや土産物屋,両替商,旅行会社などが所狭しと軒を並べている。夕食時に,学会参加者とともにタベルナ(伝統的なギリシャ式の料理店)でサガナキ(チーズの揚げ物),ムサカ(ラザニアのようなもの),スブラキ(魚や肉のくし焼き),カラマリ(イカの唐揚げ)を堪能した。「タベルナで うまい料理を食べている イカの揚げ物 舌にカラマリ」。一句できた! などとくだらぬことを考えながらこの土地の料理をいただけたのは,私にとって至福の一時であった。


夕陽の沈むときに

 イアは島北端の街である。世界で一番美しい夕陽が見られるというキャッチフレーズは,あながち誇張ではなかった。視界に広がる水平線に沈みゆく夕陽。青からオレンジに,そして赤く染まっていく西の空。夕焼けに染まる白い壁,風車。浮かび上がる小島のシルエット。そういえば先述のガイドが,「イアの夕陽を見るとき,日本人は写真を撮る。イタリア人はキスをする。ギリシャ人はウゾを飲む」と言っていた。そう,この場はやはりウゾ(リキュールの一種)が似合う。

 以上,誌面の終わりに来て振り返ると,まるで観光ガイドのような文章になってしまった。ともあれ短い滞在期間ではあったが,研究発表や議論だけでなくギリシャの魅力の一端に接することができる喜びを味わったのは,私だけではなかったはずである。今回の学会参加者たちとは別の機会にまた会えることを祈念しつつ,ここに筆をおく。

イアの夕陽(撮影:帝京科学大学 高木喜樹先生)

(いなとみ・ゆうこう) 


#
目次
#
いも焼酎
#
Home page

ISASニュース No.296 (無断転載不可)