No.288
2005.3

将来計画

ISASニュース 2005.3 No.288 


- Home page
- No.288 目次
特集 第5回宇宙科学シンポジウム
- 宇宙科学ミッションの新しい出発
- 特集によせて
- 将来計画
- 宇宙科学を支えるテクノロジー
- JAXA長期ビジョンと宇宙科学
- 編集後記

- BackNumber

天の川を探る
赤外線位置天文観測衛星JASMINE

天の川の地図作り


 古来より,人類は太陽と月,そして夜空に輝く星々の位置や運動に関心を持ってきました。紀元前2世紀のギリシャの天文学者であるヒッパルコスは,約1000個の星を観測し,初めて星の体系的なカタログ(星図)を作りました。これは地球の歳差運動(コマが倒れる寸前に見られる「みそすり」運動)の発見につながりました。また,16世紀の天文学者チコ・ブラーエは数十年にわたり,約1分角という当時としては大変な高精度で惑星の位置観測を行い,惑星の運動を求めました。このデータを用いて,ケプラーが,惑星は太陽の,まわりを楕円運動していることを導き出しました。さらに,ケプラーが導き出したこの法則を,ニュートンが万有引力の法則を用いて力学的に説明し,近代物理学が誕生したことも有名なお話です。

 その後も地上から星の位置や運動の観測が続けられていましたが,大気の乱れた流れによる星像のふらつきなどが悪影響して,観測精度には限界がありました。そこで1989年,ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が,世界で初めて星の位置と運動を大気のないスペースで観測する衛星(ヒッパルコス衛星)を打ち上げました。約1ミリ秒角という精度で太陽系近傍(約300光年以内)の星の位置,運動を正しく求めました。

 星の天球上での運動は,おのおのの星が独自に動いていることに伴う運動(固有運動)と「年周運動」の2つに大きく分けられます。年周運動とは,地球が太陽のまわりを公転していることに伴い,地球上からある星を眺めると,天球上の星の位置が見かけ上,移動するものです。つまり,星は天球上を1年の周期で小さな楕円を描いて移動します。この楕円半径が年周視差と呼ばれ,その大小によって星までの距離も分かります(視差が小さければ小さいほど距離は遠い)。つまり,三角測量の手法です。こうやって,星までの距離という天文学にとって重要な基本情報も,星の運動を測定することから直接知ることができるわけです。

 さて,JASMINE(Japan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration)は10マイクロ秒角(10万分の1秒角)という,ヒッパルコス衛星より100倍の高精度で,星の位置測定を目指している位置天文観測衛星です(図)。この精度は,チコの測定に比べると何と600万倍の向上になり,我々の天の川銀河の中心(約2万7000光年の距離)を越えて,天の川銀河円盤部の約半分の領域にある約1億個の星々の位置や運動を高精度で測定できるものです。また,JASMINEは高精度で天の川領域の大量の星を観測できるように,天の川に漂う塵に吸収されにくい,近赤外線と呼ばれる可視光よりは長めの波長の光を観測します。これが欧米の計画にはない特徴で,世界で唯一の赤外線位置天文観測衛星計画です。JASMINEは,まさに天の川の星々の“地図”作り(運動情報も含む)をするわけです。

図 赤外線位置天文観測衛星JASMINEの想像図

 この人類が初めて手にする天の川の星々の“地図”により,ギリシャのヒッパルコスや,チコ,ケプラー,ニュートンたちと同様に,宇宙の真の姿や新しい法則の発見がもたらされるものと期待しています。例えば,天の川銀河の真の姿,「見えない物質」の分布や運動とその規則性,天の川銀河の生い立ち,星の形成と進化,惑星を伴う恒星の発見,一般相対論の検証など,多様な分野での画期的な発展に役立つ“地図”となるでしょう。このように,可能な限りの精度で測定を行うことで,自然の法則を見いだす試みは,科学の基本でもあります。位置天文観測もまさに何千年にもわたり人類が新たな発見を目指して続けている営みであり,JASMINEも人類史の中でその一翼を担えるように検討を進めているところです。

 JASMINEに関して詳しくは,以下のホームページもご参照ください。
  <URL:http://www.jasmine-galaxy.org/index-j.html>

(郷田直輝[国立天文台],JASMINEワーキンググループ) 


#
目次
#
将来計画 目次
#
次期小惑星サンプルリターン計画
#
Home page

ISASニュース No.288 (無断転載不可)