No.288
2005.3

将来計画

ISASニュース 2005.3 No.288 


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特集 第5回宇宙科学シンポジウム
- 宇宙科学ミッションの新しい出発
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次期小惑星サンプルリターン計画


図 小惑星の多様性

 小惑星からカイパーベルト天体,彗星に至るまで,我が太陽系内にはおびただしい数の小天体が,サイズ,存在位置,スペクトルなど大きな多様性を持って存在しています(図)。それらは微惑星形成から原始惑星形成に至る進化過程の,いろいろな段階の“化石”といえるでしょう。小惑星に関していえば,地上観測によって反射スペクトルが明らかになったものが数千個あり,それらがC,D,P,S,M……など,約1ダースのグループに分類されています。一方,小惑星タイプと特定隕石グループとの対応関係が,両者のスペクトルの比較から提案されています。しかし,それらの対応関係には問題が多く,従って小惑星の物質的知識は極めて乏しいのが実情です。そして格段に情報が多い隕石の物質的知識とは大きなギャップがあります。

 このギャップを一気に埋めるのがサンプルリターンです。スペクトル型のうち最も数の多いものがS型とC型,D型なので,これらの物質を明らかにすることで,小惑星全集団の物質理解を大きく進展させることができます。小惑星探査機「はやぶさ」は,このうちS型小惑星から試料を採取します。次の計画では,C型(あるいはD型)の探査が必要です。C型,D型小惑星は一般に日心距離とともに存在の割合が増えていき,S型よりさらに始原的な天体であろうと考えられています。従って,太陽系のより初期状態の解明を目指そうとする我々にとって,C型,D型の小惑星の探査は欠かすことができません。地球に接近する小惑星はほんのわずかで,小天体全体から見ると氷山の一角のようなものですが,これらの中の行きやすいS型やC型小惑星への探査によって,上記の大きな課題を解くことができます。

 2007年には,「はやぶさ」が世界で初めて小惑星のサンプルを地球に持ち帰ります。現地での観測および試料の分析を通じて,従来の地上からの観測と隕石による物質的研究まで,初めて切れ間なくつながります。そして技術的には,サンプルリターンに必要な諸技術(電気推進,自律航法,試料採取,リエントリー,サンプル受け入れ,分析技術など)が習得されます。

 次の小惑星サンプルリターンミッションでは,これらの知見と技術を最大限に生かし,できるだけ早期に,より始原的で主要なタイプの近地球型小惑星(C型など)からのサンプルリターンを目指します。C型小惑星探査では,水をはじめとする揮発性物質や有機物質など,宇宙においてはより主要な成分から成る始原的物質や化学進化関連物質に特に興味があるので,サンプルは表層部のみならず深部まで,できれば層序を保持して採取します。同時にローバは探査機「はやぶさ」に搭載のミネルヴァをさらに知能的にして,上空の探査機からのリモートセンシング観測と協調して,サンプルの産状記載をしっかり行うことが要求されます。

 ワーキンググループ活動の初年度であった昨年は,M-Vロケットの2倍程度までの搭載能力を持つロケットを想定し,3つの候補ミッションを作りました。今後,これらの案のトレードオフ作業を進めていこうとしています。その中の一つは,次のようなミッションです。打上げは2012年で,3年後に1998KY26というC型近地球型小惑星に行き表面から試料を採取します。続いて,2017年の地球スイングバイの際にその試料を地球に投下した後,さらに2003YN107という近地球型小惑星に行き2回目の試料採取をします。続いて,2019年にこの試料を持ち帰る,という7年がかりのミッションです。現在開発が進んでいる高出力電気推進器μ20を使えば,M-Vロケットによってこのミッションが実現可能です。

 より原始の物質を手にしたいという研究方向は,いずれ将来,彗星や太陽系のより外の領域へと向かって先鋭的な探査を拡大していくことを意味しています。このようなさらに先の探査も視野に入れて,本計画を進めていきたいと考えています。

(藤原 顕[ISAS/JAXA],小天体探査ワーキンググループ) 


  JAXA:宇宙航空研究開発機構
  ISAS:宇宙科学研究本部


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