No.288
2005.3

将来計画

ISASニュース 2005.3 No.288 


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- No.288 目次
特集 第5回宇宙科学シンポジウム
- 宇宙科学ミッションの新しい出発
- 特集によせて
- 将来計画
- 宇宙科学を支えるテクノロジー
- JAXA長期ビジョンと宇宙科学
- 編集後記

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編隊飛行によって磁気圏の謎を解く
SCOPE


 SCOPEは,編隊飛行する5機の人工衛星によって宇宙空間を探ろうという観測計画です(図)。地球のまわりの宇宙空間には,太陽から吹き出すプラズマ(電磁場と相互作用する電離したガス)の風が吹いていて,地球の磁場とぶつかり,多彩な電磁現象を起こしています。地球の後ろの空間(磁気圏尾部)に高温のプラズマが蓄えられ,オーロラの起源となるサブストームと呼ばれる突発的,爆発的な現象が発生することが知られています。この現象は,地球の何百倍もの体積で起こる非常に大規模な現象なのですが,爆発を支配する物理過程が起こるのは,実は中心近くの数kmくらいの狭い領域であることが最近分かってきました。爆発前後にこの領域がどのように変化するかを明らかにするために,5機(親1機と子4機)の衛星を立体的に配置して,中心近くから周辺に広がるプラズマと磁場の変動を3次元的にとらえようという計画です。

図 編隊飛行磁気圏ミッションSCOPE

 現在軌道上にいるGEOTAIL衛星により,地球を囲むプラズマの躍動的な姿が明らかになってきましたが,同時に多くの謎が生まれました。これまで宇宙プラズマを記述するのに使われてきた電磁流体力学(MHD)では理解しきれない様相が,観測され始めたのです。電磁流体力学は,星のまわりから銀河のスケールまで,宇宙のプラズマ現象全般の記述に使われている学問ですから,これはゆゆしいことです。解明するためには,今までの観測技術を超える新しい試みが必要です。GEOTAIL衛星は,世界に先駆けた高時間分解能の観測(12秒で3次元情報を取得)で,サブストームが起こる際,陽子の運動がMHD近似から外れることを見いだしたのですが,鍵を握る電子の運動のスケールに迫るには,もっと高い時間分解能が必要です。SCOPE計画は,プラズマ観測器の時間分解能を今までの1000倍にして,電子の挙動を明らかにし,地球のオーロラから宇宙のスケールに至る,突発的な爆発現象や加速現象の謎を探ろうとしています。

 SCOPEミッションの中心となる2つの技術,つまり
(1)世界で初めてのミリ秒単位の3次元電子計測と,
(2)日本で初めてとなる編隊衛星観測,
を達成するための準備が進んでいます。5つの衛星群は,親機1機と子機4機で編成され,M-Vロケットで地球を回る軌道(遠地点は地球半径の30倍)に打ち上げて,軌道上で編隊を組んで観測します。数kmから数千kmにわたる空間構造を探るため,編隊間隔を段階的に変えながら観測します。5衛星の分離技術,親子衛星間の通信およびデータ転送技術,マイクロ秒の時間精度を各衛星が保持する技術,衛星相対位置決定(測距)技術,編隊の隊型維持技術,子衛星の軽量化技術,衛星スピン軸方向のアンテナ伸展技術など,非常にチャレンジングな開発要素が並んでいますが,一つ一つ具体的な解決策を見いだしつつあります。我々はぜひ,このミッションを実現して宇宙プラズマの理解に新しい一章を刻みたいと思います。

(次期磁気圏衛星ワーキンググループ) 


  JAXA:宇宙航空研究開発機構


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天の川を探る赤外線位置天文観測衛星JASMINE
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