No.288
2005.3

将来計画

ISASニュース 2005.3 No.288 


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- No.288 目次
特集 第5回宇宙科学シンポジウム
- 宇宙科学ミッションの新しい出発
- 特集によせて
- 将来計画
- 宇宙科学を支えるテクノロジー
- JAXA長期ビジョンと宇宙科学
- 編集後記

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月や惑星の降りたいところに降りて
観たいものを観る技術


 月や惑星などを調べる最初の段階は,探査機が天体の近くを通過する,あるいは探査機を天体の周回軌道に入れて,搭載したいろいろな装置で観測することです。遠隔観測が一通り終わると,着陸して表面を詳しく調べ,さらに表面のサンプルを地球に持ち帰ったり,人間が降り立って詳しく探査するようになります。現在のところ,金星,木星,土星は遠隔探査の段階,火星は着陸探査が盛んに行われており,月は人間が降りて月の石を地球に持ち帰っています。

 JAXAは今年の夏,「はやぶさ」探査機を小惑星イトカワに送り,着陸して表面のサンプルを集める技術の試験をします。そのために高度な着陸誘導制御技術の開発をしましたが,小惑星は重力が非常に小さいので,ゆっくりと考えながら降りることができます。また,未知の天体からサンプルを採ってくること自体が重要なので,着陸地点を厳密に決める必要はありませんでした。

 次に我々が目標としているのは,最も身近な天体である月への高精度着陸探査です。月にはすでにアポロ探査機などが何回も着陸していますが,人類はまだ安全で平坦な地点に数km程度の精度で着陸する技術しか持っていません。しかし,月は場所によって表面の特徴が違っていることが分かっています。月の謎を解くには,100m程度の精度で指定した場所(例えばクレータ中央部の地下物質が噴出している地点)に着陸し,移動ロボットで周辺を探査する必要があります。そのために必要ないろいろな技術を開発しています。

図1 高精度な自律的着陸誘導法

 例えば,目標点に高精度な着陸を行うためには,地球から探査機の位置を測る方法では限界があり,目標点に対する相対位置や速度を高精度に計測するセンサが必要です。我々は,探査機に積んだカメラで撮った画像とあらかじめ持っている月の地図とを比べながら,探査機が自分で判断して目標地点に精度よく着陸する方法を研究しています(図1)。また,表面に激突せずそっと降りるためには,表面との相対速度や高度を測定するための着陸レーダが必要です。月面にはクレータや岩などがありますから,これらを瞬時に判断してよける必要があります。このため,カメラで撮った画像から自動的に障害物を判断する方法を研究しています。表面に着陸したときの衝撃で探査機が壊れたり倒れたりしないように,着陸脚の研究もしています。また,月表面の砂の特性を調べ,計算機シミュレーションで着陸の瞬間の挙動を検討しています。

図2 開発中のローバ

 さらに,着陸した後にローバと呼ばれる小型の移動探査ロボットを使って周辺の岩石の観測,岩石の表面の研磨,サンプル収集などを行うための技術開発や,将来の地球へのサンプルリターンにつなげる技術として着陸機までサンプルを持ち帰る手法の開発などをしています(図2)。これらの作業では,月との通信回線は十分には取れませんから,地上からの指示は最低限にして,ローバが自分で判断して動く機能が必要です。将来,火星探査などに応用する場合を考えると,さらに電波の通信遅れが数十分になるので,地上からの遠隔操縦は現実的でなく,自律化が必要です。

図3 月面探査の想像図

 これらの技術は,地上で実験したり,計算機シミュレーションで月での環境を模擬して試験したりすることはできますが,やはり実際の月に着陸してその技術を実証することが重要だと考えています。我々は着陸時重量500kg程度の探査機を月面の指定した地点に着陸させ,ローバを使って地質探査をする計画を考えています(図3)。しかし大規模な探査機の実現機会は少ないので,まずはもっと小型の50kg程度の探査機を用いて,月でしかできない実験を行う計画も検討しています。そして将来は,火星や水星,木星や土星の衛星などへの着陸につなげていきたいと考えています。

(月惑星表面探査技術ワーキンググループ) 


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