No.250
2002.1

ISASニュース 2002.1 No.250

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第28回

宇宙塵の次世代その場計測・分析・捕集装置

矢 野 創  

 All are from the dust, and all turn to dust again.

 聖書の一節のように,「宇宙塵」は恒星と惑星系の一生で重要な役回りを演じています。まず生れる星を包む繭となり,原始惑星系を巡る円盤になります。さらに合体して惑星になったり,小天体に取り込まれた一部は黄道光や流れ星として夜空を輝かせます。星の終焉には周囲に解放され,次世代の星へ「輪廻」する材料に還ります。惑星間空間でも固体微粒子は,太陽系の物質収支や固体天体表面の進化を考える上で,基本的な観測対象です。そのため,欧米の探査機には微粒子計測器が標準装備されてきました。

 日本で装置の自主開発を始めるにはまず,
(1)独自の宇宙実績,
(2)機器開発のマンパワー,
(3)較正実験用の超高速衝突施設,

つを国内に揃えることが必要でした。私達の研究室では1995年頃から,全国の宇宙塵研究者と定期会合を開いて共同研究を推進しながら,上記3点の充実に努めてきました。例えば,

(1)SFU回収による衝突痕検査から,
(2)は南極宇宙塵採集を通じた若手育成からです。
(3)のためには,研究室の軽ガス銃に改良を加えたり,東大原子力研究総合センターの3MV静電加速器に固体微粒子用加速管を増設しました。

そして現在,日本の独創による三種類の装置の開発が進行中です。5年以内に各PM品を完成させ,次世代の惑星探査機に搭載していきたいと考えています。



【曲面電場式飛行時間型質量分析器(TOF)】


曲面電場式「TOF」質量分析器の工学モデル。


 従来この分野の「世界標準」は,宇宙研のひてんやのぞみにも搭載された,ドイツ製の衝突電離型でした。それを応用し,衝突微粒子から出たイオンを加速させると,原子質量に応じて飛行時間に差が生じることを利用して構成元素を分析するのが本装置です。しかし一般に,飛行時間に比例する質量分解能と装置の小型化は矛盾する要求です。

 そこで私達は東京水産大学と東京大学を中心として,小型ながら飛行距離が長い屈折イオン光学系を導入し,さらにポテンシャルミラーに曲面電場をかけることで,大面積の開口部のどこに当たっても,小さな検出部へイオンが収束する工夫をしました。最新版では有効面積が30平方cmに拡大され,装置寸法はハレー彗星探査機ジオット用の数割ながら,質量分解能は土星探査機カッシーニ用の数十倍まで高められました。実用化すれば,軌道上での宇宙塵とデブリの峻別は勿論,黄道面を脱出すると主成分になる星間塵など,サブミクロン微粒子の組成解明にも大きく貢献するでしょう。



【ハイブリッド型非破壊捕集・計測器】


衝突発光を検出しつつ,衝突微粒子をエアロジェルで捕獲する
「ハイブリッド」型の基礎実験。             


 極低密度材エアロジェルを使った本装置は,宇宙塵を回収して多様な物質分析に供します。しかし従来の低軌道上の微粒子採集装置では,各粒子の軌道情報や衝突エネルギーは得られません。そこで私達は茨城大学や東京大学と共に,微粒子のエアロジェルへの衝突発光の測光・分光と,回収試料の鉱物変成度の評価を,衝突実験で試みました。結果,発光と衝突速度や到達温度の相関から,衝突時刻,方向,衝突エネルギーを実測しつつ捕集する装置の開発が可能になりました。

 素材自体の最適化も必要です。秒速20km以上の星間塵でも捕集できるエアロジェルの調合を検討中です。衝突時の到達温度によって紫外線発光量が変化する「温度記憶型」エアロジェルの開発も米UCバークレー校で始まっており,共同研究を要請されています。本装置は電気推進との併用や強いプラズマ環境でも使えるので,次期小天体サンプルリターンや国際宇宙ステーションに応用できるでしょう。



【音響素子式衝突検出器(PZT)】


軽量・薄型の音響素子「PZT」式衝突検出器。


 本装置は微粒子の衝突による振動を音響素子で検出するもので,海外での宇宙実績も多いです。現在独協医科大学や早稲田大学と,BepiColomboへの搭載を目標に共同開発を進めています。素子自体の大きさは数cm角,厚さ数mm,質量数gほどです。セラミックス製のため+300℃まで使用可能で,探査機外壁に開口部なしで設置できます。そのため搭載重量や熱設計に厳しい,水星探査機や太陽プローブに適します。

(やの・はじめ) 


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