No.247
2001.10

ISASニュース 2001.10 No.247

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インド・タタ研究所訪問記

長 瀬 文 昭  

 インドのタタ研究所(TIFRTata Institute for Fundamental Research)はムンバイ(Mumbai;またはボンベイ)市南外れのコラバ地区のアラビア海に面した良い場所にある。この研究所とは,宇宙研が科学衛星を打ち上げていなかった30年以上昔から小田先生や早川先生の主導により日印気球共同実験が行われて以来,宇宙科学研究の面でも長い付き合いがある。

 今度このタタ研究所で9月11日より“Multi-Color Universe”なる国際研究会議を開くとのことで,招待講演を依頼され気軽に引き受けた。この国際会議は一つには2005年打ち上げを目指して開発が始められたインドの天文衛星,ASTROSAT (紫外線,X線,γ線領域をカバーする)に向けて気勢を挙げるため,もう一つは同研究所で長年宇宙科学分野の主任を務めてきたAgrawal教授60歳定年退官を記念してというのが趣旨であった。もっともAgrawal先生はこれで役職は免除されるけれども,今後も一教授としてはタタ研究所に留まり研究を続けられるとのことで,誠にうらやましい身分になったものともいえる。

 私はインドに行くのは初めてで,いよいよ出発日が迫ってインドへの出張・旅行の経験がある先輩・友人に話を聞く内に,これはえらいものを引き受けたと段々憂鬱な気分になってきた。生活様式や習慣の違いによる不便さに加えて,下痢,腹痛に悩まされるのは序の口で,やれ赤痢だのコレラだのにかかった,私は急性肝炎になった(ほんとにインド旅行のせいか?)などと散々脅された。そこで,最近気球実験でインド出張の多い赤外線グループの成田さんにインド生活のノウハウを聞き込み,抗生物質,風邪薬,○○丸,ビオ×××,から蚊取り線香,虫よけスプレー,トイレットペーパーにミネラルウオーターを詰め込んだ異様な海外旅行となった。幸い上等なホテルに宿泊できた事と,成田さんの忠告を守って歯磨き,うがいにも市販浄化水を使い,決して水道水やこれでできた氷を口にしなかった事で,腹痛も起こさず快適な旅を終えて帰国した。無事に帰国したので周りの人々は,口では良かったですねと慰めながら,心の中で(顔に出ている!)残念そうにしていた。

 サハール国際空港に降り立って,郊外,市内目ぬき通りを抜けてホテルに到着する迄に,早くも一種のカルチャーショックに襲われた。インドの名誉のため詳しくは語りづらいが,やはり貧困層の多さと都市近代化の立ち後れは目を覆うばかりである。市街地が雑然とし,大通りを多数の人が歩き回り,多数の車が無秩序に走り回っているのを見て驚いた。よくもこれで事故が起こらないものだと。町中あちこちで悪臭を発しているのにも閉口した。インドの大多数の国民が衛生的かつ文化的な生活を送れるようになるのは何時の事か(あるいはその様な時が来るのか)と暗澹とした気分になった。

 ところで我々滞在中に,例の乗っ取り機による米国国防省及び貿易センタービル突撃と言う恐ろしいテロ事件が起きた。アメリカからの参加者は帰りの日程の目処が立たずオロオロする者,「ま,ヨーロッパ迄行って待機するさ」と呑気な者さまざまであった。この事件のおかげで,長年の戦争で疲弊したアフガニスタンの町々や国民の姿をテレビで見る機会が多くなった。その姿を見るにつけ,これにくらべればムンバイは天国だよと思う。そして,我々の滞在したホテルは天国の中の天国であった。組織委員会が特別契約したホテルリストの中に“Taj Mahar Hotel”があったので,こんな機会でなければ泊まれないホテルと思い,ここを予約した。さすがにインドの人々が世界有数のホテルと自慢するだけあって立派なホテルである(写真参考)。我々の宿泊したのはEcoTaj と呼ばれる新館の方であったが十分満足した。宮殿風の旧館に泊まる事ができればさぞ王様気分を味わえたであろう(多少残念!)。それにしてもこの旧館に滞在する金持ちで上流階級(?)を思わせるインド人を見るにつけ,「インドって不思議な国だ」,と思う。

(ながせ・ふみあき) 


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