No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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フォーメーションフライトの工学実験衛星


 科学観測要求の高度化にともなって,様々な新規技術が必要になってきている。特に複数の衛星が協調して観測を行うような編隊飛行(フォーメーションフライト)衛星の場合,これまでとは質的に異なる技術であるため,いきなり本番の科学観測を行うにはリスクが大きいので,実験衛星によって主要技術の試験をしておくことが必要である。

 たとえばXEUS計画というX線望遠鏡衛星の場合,望遠鏡の焦点距離を長くとるために,ミラー衛星と検出器衛星を50m離して飛行させ,その間隔を2mm程度の精度で制御する必要がある。このためには高精度の相対位置計測センサが必要であり,これを開発して実際の宇宙空間で予定通りの性能を発揮することを確かめる必要がある。また衛星の相対位置は,両衛星を結ぶ線上に観測したい天体が来なければならないが,地球のまわりを周回する人工衛星の場合,このような配置を実現するためには常に軌道制御をし続けなければならず,非常に大量の燃料を消費する。すなわち,燃費の良いイオンエンジンなどの電気推進を用いることが必須となる。電気推進は既にいくつかの人工衛星で使用されているが,XEUS計画では大推力で連続運転,しかも推力を可変にする必要があり,新規の技術開発が必要である。

 フォーメーションフライト衛星では,このような要素技術だけでなく,複数衛星の同時協調運用などシステム技術の習熟も必要であり,実験衛星を用いて実際に宇宙空間で試験する意義が大きい。

 それでは,どの程度の規模の人工衛星でこれらの試験はできるであろうか。XEUS計画は,ミラー衛星が8900kg,検出器衛星が6000kgという,巨大な人工衛星である。しかしながら推進機関や燃料の重量は衛星自体の大きさが小さくなるとそれに応じて小さくなるので,観測機器の重量を少し減らしたり観測期間を短くしたりすることで大幅に軽量化できる。たとえばM-Vロケットでの打ち上げを前提とすれば,ミラー衛星600kg,検出器衛星1000kgというシステムが考えられ,観測機器の重量は300kg以上は確保できると試算されている。もっと小型で低コストに実験するためには,たとえばミラー衛星は相対距離の計測試験をするためのダミーターゲットであると考えると,400kg程度の衛星でも100kg程度の観測機器は搭載できる。

 このように,科学観測衛星が高度化,巨大化する中で,中規模の実験衛星によって核となる技術を事前実証することが重要であろう。

(橋本樹明,斎藤宏文,山川宏,國中均(宇宙研)) 


XEUS計画で考えられている衛星の編隊飛行


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ソーラーセイル 工学実験衛星構想
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