No.233
2000.8

ISASニュース 2000.8 No.233

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ミシガンにて

澤 井 秀 次 郎  

 1999年10月より1年間の予定で,米国ミシガン大学に滞在しています。文部省在外研究員として調査・研究活動を行うためです。こちらでは,主に小惑星周りの宇宙機の運動,特に「ホバリング運動」について研究を行っております。この分野は非常に新しいため,過去の文献というものもほとんどなく,「とにかく何でも良いから手を動かせ」という状態です。具体的には,こちらの受入教官が開発したプログラムコードを元ネタに各種のシミュレーションをしたり,制御則の設計を行っています。この研究分野はまだまだ小さく,「過去もなかったけど,将来もなかった」なんてことにならないよう,私も数少ない関係者の一人として努力する必要がありそうです。現在は,自分達の結果を使ってくれそうな宇宙計画はないものか,と探しているような状態で,先日は自分の職場(宇宙研)向けに売り込みのための計算をする,という珍しい経験もさせていただきました。

 今まで知人に,「私はいまミシガンにいる」というと,必ず帰ってくる答えは,「それってどこ?」。この際ですから,簡単にご紹介したいと思います。私がいるミシガンは,アメリカ26番目の州です。五大湖沿いに位置し,デトロイト市が州内きっての大都会です。自動車産業に代表されるように工業化も進んでいますが,その一方で大自然も満喫できる場所。全米で入場者数が一番少ない国立公園もここミシガン州にあります。


 さて,8ヵ月程ですが,アメリカに来て思うのはその広大さです。アメリカは大国と言われていますが,人口だけを見てみれば日本の2倍程度。国民一人当たりの能力が日米でほぼ同じと仮定すると,その国力は倍・半分程度のはず。しかし,実際にはそれ以上の差を感じずにはいられません。もちろん過去の歴史,積み重ねにも差はあるのでしょうが,やはりそれ以上に大きいのは,懐の広さの差です。そして,その懐の広さの根元にあるのはその社会の多用性と思えます。

 使い古された言葉をここで敢えてもう一度持ち出すのも恐縮なのですが,アメリカは多人種社会です。移民の受入で発展してきた国だけに実に多くの人種が混在しています。そして,そういう様々な人々が日々隣同士で暮らしています。バックグラウンドの異なる人々の間での「国際紛争」とでも言えそうな争いはこの国の中では日常茶飯事です。極端な言い方をすれば,アメリカという国の中に国際社会が入ったような状態。将来,もし世界中の国々の国境の壁が低くなることがあるとしたら世の中はこういう風になるのだろうか,とも思えてきます。アメリカは,そこに住んでいると否応なしに国際化を迫られる場所。アメリカ人の持つ「多用な価値観」や「国際感覚」というものも,逆に言えば,アメリカのこの環境の中ではそういうものを身につけざるを得ないものがありそうです。

 抽象的なことばかりを書き並べてみましたが,「それでは国際感覚を持った人は具体的にはどういう人なの?」という話もあろうか,と思います。これは人によってそれぞれ考え方が違うようで,私はいまだにその答えを探している最中ですが,少なくとも英語が喋れる,喋れないという問題ではなさそうです。私がアメリカに来て経験した中では,やはり自分のことを知らないといろいろと不都合がありそうです。以下に私が回答に窮した質問のいくつかをご紹介しましょう。

「俳句のリズムは,誰がいつ決めた?」
「京都の二条城は誰がいつ建てた?」
「聖徳太子が中国に送った書簡(日出る・・・)の結果,中国が取ったアクションは?」

 恥をさらけ出すようですが,いずれも私には答えられませんでした。アメリカで人と話をすると,相手の人は日本人である私のバックグラウンドとして日本のことに興味を持つことがあるようです。こういう話をするとき,自分が得意な方向に話題を誘導していかないと,このような質問にあってしまいます。海外で生活するときこそ日本のことを自分なりに理解していないといけないのだ,と実感させられました。それにしても,このレベルの低さ。私の高校時代の恩師にはお知らせできません。

 インターネットなどの情報網が発達している現代。単に情報を共有して共同で研究を進めるだけだとしたらわざわざ留学しなくてもよいはず,という意見も一理あります。しかし研究というのは,人間が行う創作活動のひとつ。芸術や音楽などと同じように,その研究を行う人間の個性が結果にも現れてくるものと思います。相手の人の母国に滞在し,そこの空気を味わうことで,そこの人達が行う研究内容もよりよく理解できるものだ,と実感しています。

(さわい・しゅうじろう) 



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